Twin's Story 7 "Milk Chocolate Time"

-第1章 1《拘束・汚辱》-

 

 6月中旬。すっきりしない雨模様の空が何日も続いていた。

 

「今年の夏は、どうするの?」真雪が控えめに訊ねた。

 ケネスが答えた。「さすがにまたハワイっちゅうわけにはいけへんな」

「せっかくの夏休み、またみんなでお泊まりしたいよね」マユミが微笑みながら言った。

 

 きれいに掃除され、がらんとした暖炉の前で、ケネス親子4人はティタイムを愉しんでいた。日が長くなったとはいえ、そろそろ屋外にはたそがれが迫りつつあった。

 

「去年は強烈な旅行だったからなー」健太郎が独り言のように言った。

 ケネスがコーヒーを飲む手を止めた。「何を以て『強烈』なんや? 健太郎」

「え? い、いや、ケンジおじの飛行機嫌いだとか……、そうそう、ホテルのプールでの競泳大会、あれ、強烈だったじゃないか」

「お前、今思い出したように言うたやろ。他に何か強烈な出来事があったんか?」

「べ、別にないよ、そんなもの」健太郎は言葉を濁してテーブルのチョコレートに手を伸ばした。ケネスとマユミは顔を見合わせて笑った。

 

「例えば、」ケネスが口を開いた。「仮に今年も8月3日に合わせて出かけるとすると、お前らのスケジュールはどうなんや?」

「スケジュール?」

 マユミが言った。「部活とか、課外とか、いろいろあるでしょ? 多分うちと海棠家の7人の中であなたたち二人が一番忙しいと思うよ」

 真雪がコーヒーカップを持ち上げた。「もう高校総体の県大会は終わったけど、ケン兄はブロック大会出場だね」

 健太郎が言った。「ああ。めでたくな。でもま、それも7月半ばには終わる」

「全国大会には行けへんのか?」

「その可能性は低いと思うよ、父さん。万一出られるとしても全国大会は8月17日からだから、何とかなるよ」

「そういう心掛けやから全国制覇できへんのやで」

「父さん、息子に期待し過ぎ」

「どないする? ハニー」ケネスはマユミを見た。

「ケン兄たちにも聞いてみるね」

「是非、前向きに」健太郎が言った。

「検討してください」真雪も言った。

 

 その夜、真雪は自分の部屋で一人、ベッドに腰掛け、フォトアルバムを開いて見た。去年の夏のハワイでの写真が貼られているページを眺めながら、楽しかった時間を思い出していた。双子の兄健太郎と、いとこの龍とともにプールサイドで写っている写真のページで手を止めた。三人とも競泳用の水着姿だ。シンプソン家と海棠家の家族対抗で競った水泳大会の直後の写真だった。真雪は顔を上げてドアの横に貼られた小さなポスターに目をやった。それは『Simpson's Chocolate House』のパンフレットの一つに使われた写真だった。そしてそれは真雪本人が微笑みながらシンチョコの店の前でアソート・チョコレートを手に持って立っているという構図だった。

 

「あれから一年も経ってないのに、龍くん、逞しくなったよね」真雪は独り言をつぶやいた。そして少し伸びた髪をかき上げた後、パジャマ越しに自分の胸に手を当てて、小さなため息をついた。

 

 

 街唯一のチョコレート専門店『Simpson's Chocolate House』、愛称『シンチョコ』の二代目店主ケネス・シンプソン(37)は、高校時代からの親友海棠ケンジ(37)の双子の妹マユミ(37)と結婚し、これも双子の二児をもうけた。健太郎(17高三)と真雪(17高三)の兄妹である。

 ケンジは、大学時代の先輩だったミカと結婚し、現在『海棠スイミングスクール』を夫婦で経営。自らも水泳の達人である二人とも現役のインストラクターとして活躍している。また、夫婦の間に一人息子の龍(13中二)がいて、彼も幼少の頃から夫婦に水泳を学んでいる。

 

 海棠家とシンプソン家は、家族ぐるみでのつき合いがあり、一年前の夏には二家族でいっしょにハワイへの旅行にでかけた。その時、健太郎、真雪、それに彼らのいとこにあたる龍の三人の子どもたちは、海やプールでの時間を大いに楽しみ、たくさんの思い出を作った。

 

 8月3日のその旅行は、実はある出来事の20周年を記念して企画されたものだった。その出来事とは、何とケンジとマユミの初体験なのだった。

 

 海棠家の双子の兄妹ケンジとマユミはお互いを『マユ』『ケン兄』と呼び合う仲だった。二人は高校二年生になった頃、壁一つ隔てたそれぞれの部屋で、お互いへの恋心を募らせ始めた。そうして、その夏、ふとしたきっかけで二人は互いを想い合う気持ちに気付き、そのままなだれ込むように一線を越えてしまったのだ。その日が8月3日だった。

 

 彼らの禁断の関係はそれから二年半ほど続いたが、ケンジが地元を離れて大学に進学した後、二人は泣く泣く別れた。その後ケンジは大学の先輩で何かと彼の心配をしてくれていたミカと、マユミはケンジの親友でずっと近くで見守ってくれていたケネスと結婚したというわけである。

 

 しかし、ケネスもミカも、この海棠兄妹の関係を断ち切らせることはなかった。兄妹のそれまでの事情も、二人の絆の深さも全て理解していたからだった。結果、この二組の夫婦は昨年のハワイ旅行で相手を取り替えて開放的に愛し合ったりして、四人のカラダの関係はバリアフリーになってしまっていたのだった。

 さらにその旅行中には、健太郎が密かに恋心を抱いていたミカ(本人にとっては伯母にあたる)にアタックし、初体験を済ませるというハプニングも起きた。

 

Chocolate Time 登場人物相関図

 

 海棠家の食卓。

「龍、なんでお前、理科だけこんなに点数が低いんだ?」ケンジが中間テストの成績表を見ながら言った。

「だって、苦手なんだ」変声の済んだ低い声で龍は言った。

「苦手、ってわかってるなら勉強しろ、勉強」ミカが食卓の皿を片付けながら言った。

「できるならやってるよ。とっくに」

「他の教科はとりあえず及第点をとれてるんだから、理科だけ凹んでたらお前も気持ち悪いだろ?」

「まあね」

「よく解ってないところがわかってるなら、放課後あたり、理科の先生に質問してみればいいじゃないか」

「えー、めんどくさいよ」

「中学校は勉強するところ。先生だって、教えるのが商売なんだから、聞けば親切に教えてくれるよ」ミカが少し優しい口調で言った。

「うーん……」

 

 龍はあまり気乗りがしなかったが、そういう両親の勧めもあって、明くる日の放課後、職員室に理科の教師を訪ねることにした。

「沼口先生、いらっしゃいますか?」

 窓際の席に座ってパソコンのキーボードを叩いていたその若い教師は目を上げた。そして大きな声で言った。「いるぞ」彼は立ち上がり、職員室の入り口に立っている龍に向かって歩いてきた。

「どうした、海棠」

「え? あ、あの、僕、理科が苦手でしょ?」

「『苦手でしょ? 』って、俺に聞くな。お前自身のことだろ」沼口は自分の親指を軽く舐めた。

「そ、そうですね。で、あの、教えてほしいことがあって……」

「おお、なかなか勉強熱心じゃないか。いいぞ。喜んで教えてやろう」

「ありがとうございます」龍は小さな声で言った。

「なんだ、あんまり乗り気じゃなさそうだな。ま、どうせ親かなんかに強要されて来たんだろ?」

 龍はむっとしたように顔を上げた。「い、いえ、僕の意志です」

「わかったわかった。それじゃ、ここじゃなんだから、理科室に行こうか、海棠」

「は、はい」

 沼口と龍は連れだって校舎の一階の端にある理科室に向かった。

 

 理科室に入ると、沼口はドアを閉め、電灯をつけるとカーテンで全ての窓を覆った。

「で、何を教えてほしい?」

「生物の繁殖、ってところが僕にはさっぱり……」

「ふむ。ちょっとどきどきする部分だな」

「え?」

「お前『受精』って説明できるか?」

「じゅ、受精ですか?」

「そう、受精」

「えっと、花粉がめしべにくっついて、起こること……。ですか?」

「つまり子孫を残すためのしくみのことだな。動物の場合は花粉じゃない、何だ?」

「え……っと……」

「オスが子孫を残すためにメスに与えて受精させるものだよ。お前もオスだから時々出すだろ?」

「え? ぼ、僕まだメスを受精させたことなんか、ありません」

 沼口は大声で笑った。「お前、なかなか天然だな」そうして彼は向かい合った龍の両肩に手を置いた。「精子だよ、精子。お前もここから出したことあるだろ?」

 

 沼口は笑みを浮かべて手を龍の股間に伸ばした。そして龍のペニスを着衣越しに柔らかく包みこんだ。

 

「あっ!」龍は身体を固くした。「や、やめてください、先生」

「ごめんごめん。ちょっとやり過ぎた」沼口はすぐに手を引っ込めた。

 龍は黙って下を向いた。

「じゃあ、俺がお前のためにプリントを準備しておこう。明日また来い」沼口は立ち上がった。「家で勉強できるように、ちょっとした問題もつけといてやるからな」そして彼は龍を理科室から外へ導いた。

「あ、ありがとうございました……」龍はぺこりと頭を下げ、そこを離れた。

 龍の背中を見送りながら、その理科の教師は口元にかすかな笑みを浮かべた。

 

 

「ただいまー」龍は玄関のドアを開けた。

 奥からミカの声が聞こえた。「おー、龍、帰ったか。お客さんだぞ」

 龍は玄関に並べられた履き物を見た。「あ!」そして大急ぎで自分のシューズを脱ぎ捨てると、どたどたとリビングに駆け込んだ。「マユ姉!」

「龍くん、お帰り」

「ど、どうしたの? いきなり」龍は膨らんだ鞄を床に投げやり、ソファに座っている真雪に近づいた。

「ちょっとね、届け物」

「チョコレート持って来てくれたんだぞ」エプロン姿のミカが言った。

「ほんとに?」

「そうだよ、龍くんの好きなミルクチョコレート。新しくパパが改良したんだよ。他にも、いろいろね」

「ありがとうマユ姉」

 真雪は自分の前に立って嬉しそうに微笑んでいる龍を見上げた。「ほんとにずいぶん背、伸びたね、龍くん。もうちょっとでケン兄と同じぐらいなんじゃない?」

「今年になってから急に身長が伸び始めたんだ」

「毎日、水代わりに牛乳ばっか飲んでるからな」キッチンからミカの声がした。

「牛乳好きだもんね、龍くん」

「うん。好き」龍は無邪気に笑った。

「でも笑顔はまだ子どもみたいだね」

 龍は少し赤くなって頭を掻いた。「ごはん食べていくんでしょ?」

「ごちそうになっていい? ミカさん」真雪はキッチンのミカに顔を向けた。

 ミカは生野菜を刻みながら言った。「4人分作ってるんだ。今さら帰られても困るんだがな」

「やった!」龍はガッツポーズをした。

 

 

「ケンジおじ、」

「なんだ、真雪」ケンジがビールのグラスを持ったまま目を上げた。

「龍くん、ずいぶん逞しくなったよね」真雪はサラダにドレッシングをかけながら言った。

「そうだな。でもまだお子ちゃまだ。中身はな」

「悪かったね、お子ちゃまで」真雪の横の龍が言って、ごはんを口にかき込んだ。

「成績はどうなの? 中間テスト終わったばかりじゃない?」

「それがねー、」ミカが言った。「理科だけ、落ち込んでるんだ」

「理科?」

「そうなんだ」

「僕、今日の放課後沼口先生に教えてもらった」

「そうか、」ケンジが言った。「さっそく教えてもらったか」

「うん。でも、今日はちょっとだけ。僕の苦手なところのプリントを明日準備してくれるんだって」

「へえ、いい先生じゃないか」

「沼口先生はあたしの中三の時の担任だったんだよ」

「そうなの?」

「仕事をきちんとされる先生でね。女子生徒に人気だったよ」

「マユ姉も?」

「あたしはそれほどでも」

「ふうん……」

「でも、あたしも一度だけ教えてもらったこと、あったよ。受験前に」

「へえ」

「とっても親切に教えてくれて助かった」

「真雪のお墨付きか。どんどん利用しな、龍」ミカが言った。

 

 

「じゃあね、ミカさん、ケンジおじ」玄関で靴を履いて、真雪が言った。

「ああ、またいつでもおいで」

「ケニーたちによろしくな」

「わかった。伝える」

「ちゃんと家まで送るんだぞ、龍」

「わかってる」

「変質者が現れたら闘え」

「しっかり真雪を守るんだぞ」

 真雪が顔の前で小さく手を振った。「いや、ミカさん、大げさだから」

 

 

 龍と真雪は玄関を出た。『Simpson's Chocolate House』は海棠家からいくらも離れていなかった。二人の足なら歩いて10分とかからない距離だった。

「ごめんね、龍くん、送ってもらっちゃって」

「気にしないでよ、マユ姉。いちおう夜だし、最近は物騒だって言うし」

「一人で帰る時、龍くんも気をつけなよ」

「え? 何で?」

「今は男のコを狙う変質者もいるって言うから」

「大丈夫だよ」龍は笑った。

 

 真雪は歩きながら唐突に龍の手を握った。

「えっ?!」龍はびっくりして、真雪の顔を見た。

 真雪は正面を向いたまま微笑みながら言った。「ちっちゃい頃、よくこうして手を繋いでたよね」

「そ、そうだったね……」

「でももう龍くん、あたしより背高いし、不釣り合いかも」

「そ、そんなことないよ。い、今でも僕……」

 

 真雪は龍の手のひらが汗ばんできたのに気づいた。

 

 通りの角を曲がり、すぐそこに『シンチョコ』が見えてきた。真雪は立ち止まった。龍は慌てて真雪の手を離した。

 

「龍くん、」

「え? な、なに?」

「あたしと付き合わない?」

「え?」龍は真雪の今の言葉の意味がとっさによく理解できなかった。

「あたしの彼氏になってくれない?」

「ええっ!」龍は真っ赤になってうろたえた。

「あたしのこと、きらい?」

「す、すっ! すっ! 好き! マユ姉、本気で言ってるの?」

「本気だよ」

「ぼ、ぼっ、僕と、つっ、つっ、付き合ってくれるの?」

 

 真雪は少し背伸びをして口を龍の顔に近づけ、素早くキスをした。ほんの一瞬の出来事だった。

 

「マ、マユ姉っ!」

「じゃあ、またね、龍くん。送ってくれてありがとう」そう言うと真雪は『シンチョコ』に向かって駆けていった。

 

「先生、今日もお願いします」龍は昨日と同じように職員室の沼口に声をかけた。

「おう、来たな海棠。よしっ! 理科室に行こう」

「はいっ!」

 理科室への廊下を歩きながら沼口は言った。「どうした、海棠。今日はえらく機嫌がいいようだが」

「そうですか? 気のせいでしょ」

「ま、いいけどな」

 

 理科室に入った沼口は、龍を椅子に座らせ、昨日と同じようにドアを閉め、カーテンを引いた。

「先生、僕のためにプリントなんか準備してくれてありがとうございます」

「何てことないよ」沼口は理科室から続く理科準備室のドアを開けて中に入っていった。龍は自分の鞄から筆記用具を取り出して広い机に置いた。理科の授業で実験をするためのその机は、数人の生徒が囲めるぐらいの広さだった。周囲に6脚の椅子がある。

 

 まもなく沼口が準備室から出てきた。手には何やら薬品の入った茶色の小瓶や実験器具などが乗せられたトレイを持っていた。

「そう言えば、お前、シンプソンのいとこなんだってな」

「え? は、はい」

「二人とも元気か?」

「はい。元気にしてます」

「真雪の方は俺好みの可愛い生徒だったな……」沼口が独り言のように言った。

「えっ?」

「お前もそう思うだろ?」

「べ、別に……。いとこだし……」龍がうつむいて少し赤くなっているのを見て、沼口は口元にうっすらと笑みを浮かべた。

 

 外で雨が降り出した。雨粒が地面を打つ音が聞こえ始めた。

 

「さて、海棠、お前、実験は好きか?」

「え? 実験ですか?」机の上に並べられたものを見て、ずいぶん大がかりな勉強をするんだな、と龍は思った。「嫌いじゃないですけど……」

「そうか」沼口は器具を机に広げ始めた。「おもしろい実験をしてやろう」

 龍は黙っておとなしく椅子に座っていた。沼口が彼のすぐ横の椅子に座り、わざわざその椅子を動かして、龍に自分の身体を近づけた。

「これが何だかわかるか?」沼口は茶色の瓶を手に取った。それは手のひらに包めるほどの小さなものだった。

「え? わ、わかりません」

「これは硫酸だ」

「硫酸?」

 沼口は静かにその瓶の蓋を開けた。「これを……、おっと!」突然沼口の手がすべり瓶が傾いた。中の液体が机にこぼれ、龍の膝にしたたり落ちた。

「まずい! 海棠、ズボンを脱げ! 急いで!」

「ええっ?!」龍は慌てて椅子を倒して立ち上がり、言われたとおりにベルトに手をかけた。しかし焦っていてなかなかベルトを外すことができなかった。「早く! 火傷するぞ!」沼口はベルトに手をかけ、龍がズボンを脱ぐのに手を貸した。半ば無理矢理ベルトを外し終わると、沼口は一気に彼のズボンを引きずり下ろした。

 

「すまん、海棠」そう言ってその理科の教師は露わになった龍の太ももに手を当て、なで回しながら観察した。「大丈夫のようだ。肌に異常はない」

 沼口は、脱がせた龍のズボンを取り上げて準備室に入った。龍は一人、教室で下半身だけ下着姿のまま、そこに立ちすくんでいた。

 

 水の流れる音がした。そして数分後に沼口は龍の元に戻ってきた。

「今、お前のズボンは水で洗ったから、心配するな。でも乾くのに少し時間がかかるが、大丈夫か? 急ぎの用とか、ないか?」

「べ、別にありません」

「そうか。それはよかった」

 沼口は立ったまま言った。「そのシャツも脱げよ」

「えっ?!」

「裾のところに硫酸がかかってるかもしれないだろ」

「い、いえ、たぶん大丈夫だと……」

 

 沼口は龍のシャツの襟に手をかけた。

「俺が、調べてやるから、脱ぐんだ」彼は低い声でゆっくりと言った。龍は軽い寒気を覚えた。

 

「や、やめてください……」龍は拒んで身体をよじった。沼口が襟を掴んだまま力を入れた拍子に一番上のボタンが一つはじけ飛んだ。龍は身体をこわばらせた。

 沼口に上から一つずつシャツのボタンを外されている間、龍はなぜか身動きとれなかった。そして、彼は黒いビキニの下着だけの姿にさせられた。

「なかなか大人っぽい下着を穿いてるじゃないか。俺の思ったとおりだ」

「え?」

「これからが本当の実験だよ、海棠」沼口はそう言うやいなや、龍の身体を抱きしめた。

「ちょ、ちょっと! せ、先生!」龍は慌てた。

 

 龍の身体は大きく、逞しくなってはいたが、沼口はそんな龍を身動きできないほどの力で抱きすくめていた。そしてその教師は龍を床に押し倒した。

「な! 何するんだ!」龍は叫んだ。

 沼口は龍の身体に馬乗りになり、硫酸の入っていた小瓶を手に取った。「おとなしくしろ。騒げば今度はこれをお前の顔にかけてやる」

 龍は絶句した。  

 沼口は片頬に薄気味悪い笑みを浮かべた。「俺は学生時代にラグビーをやってた。水泳選手なんぞに力で負けはしないよ」そう言って沼口は瓶の中の液体を一滴、龍の乳首のすぐそばに落とした。

「あ、熱っ!」

「わかっただろう? 俺には逆らわない方がいい」

 龍の心臓は口から飛び出さんばかりに激しく脈打っていた。

「心配するな、お前を気持ちよくさせてやるだけだ」

「な、何するんだ!」龍は暴れた。「放せ!」

「おとなしくしろって言っただろ!」ばしっ! ばしっ! 沼口の平手が龍の頬を激しく往復した。爪がかすって、龍の右頬が少し切れた。血が滲み出て、頬を伝って流れた。しかし、それでも龍は叫んだ。「降りろ! 僕から降りろ!」ぺっ! 龍は沼口の顔に向かって唾を吐いた。

 

 沼口は顔にかかった龍の唾液をゆっくりと右手の親指で拭い、それを自分の口に持っていって、赤い舌でべろりと舐めた。龍は目を見開いて息を呑んだ。

「いいね、なかなかいいよ、海棠 龍」沼口の顔に薄気味悪い笑みが浮かんだ。

 

 沼口はテーブルの器具といっしょに持ってきていたロープを手に取った。「さあ、楽しい放課後の実験タイムを始めよう」

 彼は龍の右腕を掴んだ。そしてロープを手首に結びつけ始めた。

「やめろっ!」龍はまた暴れた。沼口は龍の腰のあたりに跨ったままだ。龍は脚もばたつかせ、もがいた。

 唐突に沼口が言った。「シンプソンは俺の教え子だったが、」

「え?!」

「昔話をしてやろうか。ここでお前のいとこのシンプソン真雪を同じように実験したことがある」

 

 龍は頭をハンマーで殴られたようなショックを受けた。

 

「いいカラダだったよ、彼女は」

「きさま!」龍はやっと一言だけ叫んだ。顔が真っ赤になっている。

「お前がここで俺の言うことを聞かなければ、その時の写真をネットで公開してやろう」

「…………!」龍の口から言葉を発するエネルギーと抵抗する気力が奪い取られた。

 

 雨が激しくなってきた。理科室には湿った空気が充満し始めた。

 

 沼口は龍の両手首をロープで縛り上げ、床から実験机に立ち上がった手近なガス管に結びつけた。そして彼の秘部を守っていた小さな衣服を脱がせ始めた。下着が降ろされ、乱暴に脚から抜きさられた。龍は顔を横に向けて目を固く閉じたまま、その屈辱に耐えた。右頬を流れていた血が床にこすりつけられた。

「なかなか立派なものを持っているじゃないか。俺の思ったとおり」

「ぼ、僕をそんな目で見てたのか!」

「そうさ。いつかこうやってお前を辱めてやろうと考えてた」

 

 沼口は龍の脚に指を這わせ、足首を掴んだ。やがて龍の足首は片足ずつ同じようにロープで縛られ、それぞれ別のテーブルに伸びたガス管や水道管に結びつけられた。龍のカラダは両手が頭上に引っ張られ、脚は大きく広げられて床に全裸のまま仰向けに固定されたのだった。龍のペニスが少しずつ大きくなり始めたのを沼口は見逃さなかった。

「なんだ、お前、好きなんだ、こういうコトされるの」

「くっ!」

「素直になればいいじゃないか。よし、始めようか」

 沼口は自らも着衣を脱ぎ去り、あっという間に全裸になった。「興奮するね」沼口のペニスはすでに大きく怒張し、びくびくと脈動していた。龍は思わず目をそらした。

 

 沼口は広げられた龍の両脚の間にひざまずき、右手の中指を自分の口に入れ、たっぷりと唾液で濡らした後、静かに龍のアヌスにあてがい、ゆっくりと中に入れ始めた!

「ううっ!」龍の腰全体に鋭い痛みが走った。

「少し切れたな……。力を抜け。観念しろ。抵抗してももっと痛い思いをするだけだぞ」

 沼口の指が龍の中でうごめいた。その固い入り口を押し開き、揉みほぐすようにそれは動いた。

「お前はまだ経験してないだろう? ここはな」

 沼口はテーブルの試験管を一本手に取ると、その底を同じように舐め、今度はそれを龍のアヌスに挿入した。ガラス製のそれは指よりも簡単にするりと中に入り込んだ。

「や、やめ……」

「下手に動くと、中で割れてしまうぞ。意外に試験管は脆いからな」

「あ、ああああ!」龍は喘ぎ声を上げ始めた。

「そう、じっとしてろ。どうだ? 感じるだろ?」

「だ、だめだ! ど、どうして、あ、あああああああ……!」

 龍のペニスは先の痛みで萎えかかっていたが、腸の中で試験管が動かされる度に、強烈な刺激が彼の感覚中枢を嬲り、いつしかその先端からどくどくと半透明の液体を溢れさせ始め、それは龍自身の腹部にしたたり落ちた。

「ここは前立腺だ。さあ、女のように感じるんだ、海棠」

 龍は身をくねらせ、その今までに体験したことのない快感と闘っていた。

 

 永遠に続くかと思われたその行為が終わった時、龍のカラダは汗だくになっていた。薬品臭い理科室の床が龍のカラダの形に濡れている。しかし、まだ拘束は解かれなかった。大きく胸を上下させて荒い呼吸を続けている龍を見下ろして、沼口は自分の怒張したペニスを手でさすり始めた。

「お前もイくか? 海棠」

「も、もうやめてください……」龍の目に涙が宿っていた。

「イきたいだろ?」沼口はその身体を龍に覆い被せた。そしてペニス同士をこすりつけ始めた。

「や、やめて……」

「バックの楽しみは、また今度にしよう。まだ受け入れるには早いようだからな」沼口はそう言いながら腰を激しく動かし始めた。いつしか龍のペニスは大きくなり、びくびくと脈動し始めていた。沼口が腰を揺する度に、二本のペニスが絡み合い、自ら分泌する液でぬちゃぬちゃと淫猥な音を立てた。

 

「も、もう……だ、だめ……」龍が顎を突き出して喘ぎ始めた。「やめて! やめてっ!」龍はかぶりを振って泣き叫んだ。

 

「いいね。もっと泣け。ヨがって叫べ!」

 

 沼口の腰の動きが激しくなってきた。やがて沼口は固く目を閉じ、呻いた。「ぐっ!」次の瞬間、龍の腹に生暖かい液体が放出され始めた。沼口のカラダはびくん、びくんと脈動し、その度につぎつぎとその体内にあったものが龍のカラダを汚し続けた。ますますぬるぬるになった二人の身体の隙間で、龍のペニスがぶるっと大きく震えた。

 

「あ、ああああっ!」龍がひときわ大声で叫んだ。とっさに沼口は身を起こし、最高に怒張した龍のペニスをおもむろにくわえ込んだ。その瞬間! びゅるるっ! 龍の射精が始まった。びゅるっ! びゅくっ! びゅくびゅくびゅくっ!

「うあああああーっ!」龍はのけぞり、カラダを硬直させた。びゅるっ! びゅくっ! びゅく、びゅく、びゅく……。

 

 龍の放出が全て終わるまで、沼口は口を離さなかった。その口とペニスの隙間から白濁した液が大量に溢れ、龍の股間をどろどろにした。

 沼口は立ち上がり、口の中に残った龍の精液を飲み下した。「やっぱり若いカラダは最高だ。海棠、どうだ? 気持ちよかっただろ?」

 

「帰りたい……帰してください……お願いです、先生……」力無く床に張り付けられたまま、龍は泣きながら懇願した。

 

 沼口は脱いだ自分のズボンのポケットから小さな銀色のデジタルカメラを取り出した。そして腹と股間を精液と唾液で汚された龍のカラダを上から撮影した。フラッシュが光る度、龍のカラダはびくっ! と反応した。

 

「海棠、明日も楽しもうな、先生ここで待ってるからな」沼口はそう言って自らの服を元通り着直した。そして龍の手足に結びつけられたロープをほどいた。

「真雪さんの写真を消してください」龍は裸のまま床にぺたんと座り込んで、ようやくそう言った。「僕のカラダで満足したんだから、マユ姉の写真を全部消してください!」

「マユ姉って呼んでるのか。仲いいんだな」ふふん、と沼口は鼻で笑った後続けた。「俺は女に興味はない」

 

「え?!」龍は鋭く顔を上げた。

 

「さっきのあれは作り話だ」

「な、何だって?!」龍は立ち上がった。

「馬鹿なやつ。こうも簡単にだまされるとは思わなかったよ」

 龍は沼口につかみかかろうとした。しかし、沼口は龍の腕を逆にひねり上げた。「くっ!」

「無駄だ。海棠」そして全裸の龍を床に引き倒し、つかつかと窓際に歩き、カーテンを全開にした。激しく雨が降っている。薄暗かった理科室が、白い戸外の光で満たされた。いくつかの傘が窓の下を駆け抜けた。龍は慌てて股間を手でかくし、近くに落ちていた下着を拾い上げて急いで身につけた。

 

「下手なことを考えない方がいいぞ、海棠。さっきのお前の写真は俺の手の中にあるんだからな」

 沼口はデジカメを見せびらかしながら準備室に入って、龍のズボンを持って出てきた。「ほら、返してやるよ。今日は帰りな」沼口が投げてよこしたそのズボンに水で洗った形跡はなかった。龍は急いでそれを拾い上げて身につけた。

「じゃあ、明日。またこの時間に一緒に実験しようじゃないか。海棠」沼口は準備室のドアを中から閉めた。そしてすぐに鍵がかけられる乾いた音が部屋中に響いた。

 

 後にはただざあざあと降り続く雨の音だけが、龍の耳の中で渦巻くばかりだった。

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