Twin's Story 外伝 "Hot Chocolate Time" 第2集

第6話 幼児返りタイム

《登場人物》

シンプソン真雪(22)/海棠 龍(18)/海棠 ミカ(44)

《幼児返りタイム 前編》

 6月下旬。今にも雨が降り出しそうな空模様だった。

 

 龍は恨めしそうに空を見上げて足を止めた。

「鬱陶しいなあ……。早く梅雨が明けてくれないかな……」

 厚い雲のせいでいつもより極端に暗くなった町並みは、その梅雨空とは対照的にきらびやかな照明に浮かび上がり始めていた。

 勤め先の新聞社からの帰路、彼はたたんだ傘を左手に持ち直して、オレンジ色の明るい光に満ちている一軒のアクセサリー店に入っていった。

 

「いらっしゃいませ」若い女性店員がにこやかな表情で龍に微笑みかけた。

 

 

 海棠 龍。18歳。この4月に高校を出て地元の新聞社に記者として就職した。すでにあちこちの取材を経験し、カメラの腕の良さも評価され、編集長のお気に入りになっていた。

 彼が中二の頃からの恋人で、すでに深い仲になっているシンプソン真雪は22歳。動物飼育の専門学校を出て現在は小さなペットショップに勤めている。彼女は動物介護士や犬訓練士など、動物に関する資格や免許を数多く取得していた。中でも家畜人工授精師の免許を持っていることで、近県の畜産研究所や酪農業者などからもたびたび声が掛かっていた。

 真雪の家は町でも名高い『Simpson's Chocolate House』(→『Simpson's Chocolate House』についてだ。現在のメインシェフのショコラティエは彼女の父ケネス・シンプソン。その妻マユミと龍の父親ケンジは双子の兄妹である。したがって龍と真雪はいとこ同士という関係だ。

 

 

「ねえねえ、真雪はさ、なんで俺なんかと付き合う気になったの?」

「どうしたの? いきなり」ベッドに龍と並んで腰掛けていた真雪は、アソートチョコレートをつまんだ手を止めて、龍の顔を見た。

「いや、だって、真雪が中学生だった頃や高校時代に、気になる人とか、いたんじゃないの?」

 

 龍と真雪は日曜日の夜、シンプソン家の真雪の部屋で過ごしていた。

 

 真雪は爽やかな表情で言った。「あたし年下好きだから」

「学校にも年下はいるじゃん……」

「なに? どうしたの? 今日は妙に突っ込んでくるじゃない、龍」

「だってさ、よく考えたら俺って君のいとこでしょ? あんまり恋愛対象にならないんじゃない? 普通」

「安心感……っていうか、心の開放感がもてるんだよ、龍には。ちっちゃい頃からよく知ってるしね。でも、あなたが中一の時、一緒にハワイに家族旅行で出かけた時から、急に気になりだしちゃったんだよ」

「急に?」

「うん。前から龍のこと大好きだったけど、なんて言うか、ときめき始めた、っていうか」

「ふうん……」龍は照れたように微笑んだ。

「龍はどうなの?」

「えっ? 俺?」

「あたしのこと、何で好きになってくれたの?」

「実はさ、俺、すでに小学校の頃から君が好きだったんだ」

「いとこのお姉ちゃんとしてでしょ? それって」

「確かに小さい頃はそういう感じだったけどね。でも、思春期になって、女の子のカラダとかに興味が出てきた頃からは、もう君のことを女の子として好きになってたような気がする」

「ひどい! 龍はあたしのカラダ目当てでつき合ってたのねっ!」真雪はいたずらっぽく笑いながら龍を睨み付けた。

「そうだよ。俺は真雪のカラダを味わうのが目的でつき合ってる」龍は真雪に抱きついた。

「それでもいい。あたし、龍に抱かれると最高に幸せだって思うもん」

 龍は笑いながら真雪の頬を両手で包み込み、その目を見つめた。「冗談だって。真雪の全てが、俺、大好きだよ」

 

 龍は真雪にそっとキスをした。

 

 龍の口が離れた時、真雪はうっとりしたようなため息をついた。そして柔らかく龍の背中に腕を回した。

 龍はもう一度、真雪の口を塞いだ。そして激しく交差させながら舌同士を絡み合わせた。

 んんっ、と小さく呻きながら、真雪は愛する龍の熱い口づけに身を震わせた。

 

 二人は立ち上がり、お互いのシャツを脱がせ合った。そして下着だけの姿になると、龍は真雪をゆっくりと抱きしめ、背中を優しく撫でながらブラのホックを外した。

 

「龍……」真雪は泣きそうな顔で龍の目を見つめた。

「真雪、好きだ……」龍はそう言って彼女のブラを腕から抜き取り、また背中に腕を回して熱いキスをした。

 

 

 二人の身体は一つになったままベッドに倒れ込んだ。

 

 龍は真雪の豊かな乳房を愛し始めた。右の乳首をくわえて、左の乳房を手のひらでさすった。

「あああん……」

 

 いつものように龍の唇が真雪の身体をゆっくりと味わいながら這い下り、彼女のショーツが静かに龍の手によって脱がされると、真雪の身体はどんどん熱くなっていった。

 

「ああ、龍……」

 真雪がうっとりした声を出し、秘部をその舌と唇で愛し始めた龍の頭をそっと両手で包んだ。

 龍は時間を掛けて真雪の中心を慈しんだ。いつしか真雪の中から溢れ出た雫がシーツをしっとりと濡らしていた。

 

 真雪が上気した顔を上げた。「今度はあたしの番だよ、龍」

 龍はにっこりと笑ってうなずいた。

 

 真雪は仰向けになった龍の黒い下着を脱がせると、勢いよく跳ね上がった彼のものを両手でそっと包み込んでその先端に舌を這わせ始めた。

「うっ……」

 龍はびくん、と身体を硬直させた。

 

 真雪の口の中に、龍のペニスがすっぽりと吸い込まれた。そして彼女の舌は、その全てをくまなく舐め上げた。

 龍は快感に顔をゆがめ、真雪の頬を両手で押さえた。

「ま、真雪、も、もう……」

 真雪は龍のペニスから口を離し、上目遣いで龍を見て微笑んだ。

「繋がる? 龍」

「うん」龍は恥じらったように顔を赤らめた。

 

 龍はベッド脇の小さなサイドボードからプラスチックの小さな包みを取り出し、中にあった薄いゴムを自分のペニスにするすると被せた。そしてその先端に自分の唾液を塗りつけた。

 

「ごめんね、龍」

「え? 何が?」

「面倒なことさせちゃって……」

「全然平気だよ」

 

 龍は微笑みながら仰向けになった真雪にそっと身体を重ねた。そして真雪の両脚を持ち上げ、ペニスの先端をそっと彼女の谷間に宛がった。

「龍、来て……」

 龍は少しずつ彼女に入り始めた。

 

 そして二人の身体は深い場所で繋がり合った。

 

「龍……」真雪は少し涙ぐんでいた。「嬉しい……」

「俺も……」

「龍と一つになることが、あたし、この世で一番好き……」

「俺も」そして龍はふっと笑った。「いこうか、いっしょに」

 真雪はこくんとうなずいた。

 

 龍は柔らかく腰を動かし始めた。真雪の身体もそのリズムに合わせて揺れ動く。龍は真雪の豊かな乳房を手でさすったり舌で舐めたり、唇で挟み込んだりした。その度に真雪は小さく呻きながら、次第に動きを大きくしていった。

 

 龍の腕がシーツと真雪の背中の隙間に滑り込んだ。

「あ、ああああ……」

 真雪はにわかに大きな声で喘ぎ始めた。

 龍はゆっくりと手のひらで汗ばんだ真雪の背中をさすりながら、その腕に力を込めた。

 

「龍、龍っ!」

「ま、真雪!」

 

 汗を全身に光らせながら、龍と真雪の身体は一つになったまま激しく波打っていた。


「イっちゃう! 龍、龍っ!」

「真雪っ!」

「イって! いっしょにイってっ! ああああっ!」

 真雪の身体が細かく震え始めた。

「出、出るっ! 真雪! イくっ! ぐうっ!」

 

 びゅくびゅくびゅくっ!

 

 龍の腕にきつく抱きしめられたまま、真雪は身体を硬直させて叫んだ。「あああああーっ! 龍っ!」

 

「真雪、真雪、真雪っ!」

 龍の腰がびくびくと長い間脈動を続けた。



 龍の腕の力が緩み、二人は額を突き合わせて微笑んだ。龍も真雪もまだ荒い息は収まっていなかった。

 

「嬉しい、龍、嬉しい、あたし……」

「さっきから何? 嬉しい、嬉しいって……」

 龍は呆れたように真雪の目を見つめて言った。

 

「だって、嬉しいんだもん」

「変なの。いつもそんなこと言わないのに……」

「龍の腕に抱かれるとね、魔法にかかったみたいに幸せな気持ちになるんだ」

「そうなの?」

「うん」

「俺は真雪の中にいる時、すっごく幸せな気分になるよ」

「ゴムつけてても?」

「もちろんつけない方がいいに決まってるけどさ。でも今もとっても俺、癒されてる」

「そうなんだ……」

「気持ちも繋がってる、って思えるし」

「そうだね……。あたしも」

「真雪が好きだ、って強烈に思えるんだ」

「良かった。カラダ目当てじゃなくて」

「だから、違うって、さっき言ったでしょ」

 龍も真雪も笑った。

 

 

 龍と真雪は全裸のまま、二人並んでベッドに仰向けになっていた。

 

 真雪は龍に顔を向けた。

「龍、あたし、明日から泊まり込みで出かけなきゃなんない」

「そうだったね。いつも行ってる酪農研究所でしょ?」

「うん」

「でも、泊まり込みでやるような仕事なの?」

「新品種の牛の遺伝子に関する調査に立ち会うことになっててね。牛乳の品質検査の結果が出るのに時間がかかるんだよ」

「そうなんだ……」龍は少し不安そうな表情を真雪に向けた。「で、いつまでいるの? 向こうに」

「金曜日には帰れるよ、たぶん」

 龍は小さな声で言った。「……ぎりぎりだな」

「え? 何が?」

「いや、何でもない。ちゃんと金曜日に帰ってくるんだね?」

「何? 『ちゃんと』って」

「いや……」

 

 真雪は身体を龍に向け直した。

「金曜日、帰ってきたら龍んちに泊まっていい?」

 龍の顔が輝いた。「もちろん。俺も今言おうとしてたとこ。絶対来て、うちに」

「わかった」真雪は微笑んだ。「龍の好きな牛乳ももらって帰るね」

 龍は肩をすくめた。「俺は真雪さえ抱ければ、あとは何にもいらないよ」

「あたしのカラダだけ?」

「だから違うってば」

 

 二人は笑って、またキスをした。

 

 

 

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