『雨の物語』の恋人たち

 想いをうまく伝えることのできない不器用な男たちのラブストーリー、『雨の物語集』

 『Chocolate Time』シリーズの外伝としては、それまでレギュラーとして登場したメイン・キャラクターが完全に脇役に回った異色の物語集です。

 ただ、どの話も、その中心に『Simpson's Chocolate House』(『Simpson's Chocolate House』について)があり、彼らがハッピーエンドを迎える手助けをしています。

天道 良平(てんどう りょうへい)

天道 良平

 良平はあの修平の3歳年上の実兄。でも、性格は随分違います。修平は跳ねっ返りで大胆な性格なのに、兄の良平は慎重で比較的物静か。クラシック音楽を聴くのが趣味という、少々地味な印象を与える青年です。しかし、言動は極めて常識的で、さらに何事にも誠実なので、大学を出て務めているホームセンターではその人柄を買われ販売部長を任されています。部下への接し方も人間的で温かく、決して命令したり強要したりすることはありません。ある意味理想の上司になるタイプですね。

 眼鏡を外すと、弟修平に見た目そっくりになります。修平を知る同級生の真雪や修平の妻夏輝は、時々良平の眼鏡を外してもらって、修平と並べて座らせて喜んだりしています。

 

基礎知識『天道兄弟』

春日野 リサ(かすがの りさ)

春日野 リサ

 リサは真雪と龍のカップルのアツアツぶりにずっと憧れていて、自分も年下でシャイな男性と交際したい、と思っていました。彼女が良平のホームセンターに就職する直前までつき合っていた男性は、年下ではありましたが、なかなか積極的になれない草食系男子。ほのぼの系のリサがその彼の態度に業を煮やしてホテルに誘ったりしたほど。それでもやっぱり進展しない仲にリサは困惑していました。

 良平同様クラシック音楽を聴くのが趣味で、中でもJ.ブラームスとM.ラヴェルのファン。殊にリサはブラームスの室内楽作品とラヴェルの『道化師の朝の歌』に心を熱くする傾向があり、これらを聴いていると、身体も熱くなり、誰かに抱かれたいと密かに思っていたらしいです。

《雨の歌》

 恋人と別れたばかりのリサ、恋人に二股がけされている良平。そんな二人が良平の務めるホームセンターで出会い、お互いの辛さや哀しみを思いやるうちに惹かれ合っていく、という物語。

 リサは良平の実弟修平とは高校時代の同級生同士。修平と違って良平は真面目で誠実で、少々臆病なところもあり、リサと交際を始めてもなかなか大胆になれない。

 

 ――クラシック音楽という共通の趣味が図らずも良平のリサへの想いを強くさせていきます。『雨の歌』のように、始めは躊躇いがちに、しかし次第に情熱的に……

 『雨の歌』とは、J.ブラームスのバイオリンソナタ第1番ト長調作品78のニックネーム。

小説『雨の歌』はこちら

道化師の朝の歌(M.J.ラヴェル)


志賀 将太(しが しょうた)

志賀 将太

 祖父建蔵が営む『志賀工務店』に生まれた将太は、高校入学直後父親を病気で亡くし、それから間もなく母親が家を出て行く、という不幸に見舞われます。元々気の強い方ではなく、どちらかというと心優しい少年である将太は、しかし、さすがに両親が自分の元を立て続けに去る、という経験をすれば心は荒むもの。そのどこにもぶつけようのない感情のはけ口になったのが高三の時の担任、彩友美だったわけです。もし彩友美が将太の心と身体を受け入れてくれなかったならば、彼はいわゆる非行少年として、ますます暗く辛い人生を歩んでいたことでしょう。

 将太は小さい頃から建蔵の仕事場に連れていかれていました。『Simpson's Chocolate House』へも度々訪れ、ここの真雪と健太郎とは幼い頃からの友人同士。彼らを始め、二人の父親ケネスやその妻マユミが将太のことを気遣ってくれていたことも、彼が本物の非行少年にならなかった一因です。

鷲尾 彩友美(わしお さゆみ)

鷲尾 彩友美

 音楽大学を出て将太や健太郎、真雪たちの通う工業高校の音楽教師となった彩友美は、その二年目に担任をしたクラスで将太と出会います。実は彩友美は彼に一目惚れをしてしまったのでした。ところが、彼の抱えているものの壮絶な重さを目の当たりにして戸惑い、それでもその思いを受け入れようとして、彩友美は身体を彼に預け続けたのです。

 高校音楽室での将太からの凌辱行為は、もちろん若い彩友美には酷く辛いものでしたが、彼女には将太の本当の気持ちがうすうすわかっていました。いつかは自分に心を開いてくれる、そう信じて耐えていたのです。

 結局彩友美は24歳で『志賀工務店』に将太と共に住み、翌年19歳の将太と籍を入れます。結婚後は心優しく、しかし甘えっ子の将太を、彼女は妻と言うより母親に近いスタンスで包みこんでいます。

 彼女のピアノの腕前はなかなかのもので、大学の卒業演奏会ではトリを務め、その嫋(たお)やかな容姿とはうらはらに、ベートーヴェンの『熱情ソナタ』を豪快に弾きまくったことは同期生や当時の教官らの語り草になっています。

《ずぶ濡れのキス》

 高一の時に母親が失踪し見捨てられたと感じた将太は、その母親への恨みと愛慕の気持ちの両方を強く抱えていた。それが母親に似ている担任の彩友美に向けられ、学校の音楽室で何度も彩友美の身体を汚し続ける。

 『Simpson's Chocolate House』のオーナー、ケネス・シンプソンに心の内を吐き出し、諭されたことで、将太は彩友美への本当の想いに気づき、雨に打たれてずぶ濡れになりながら彼女に会いに行く。

 彩友美は将太の抱える想いを受け止め、自らも心惹かれていた彼に身体を預けることで、将太の母親への思いを昇華させ、自らの熱い想いを実現させていく。

小説『ずぶ濡れのキス』はこちら

ピアノソナタ第23番ヘ短調作品57「熱情」第3楽章(L.V.ベートーヴェン)


秋月 遼(あきづき りょう)

秋月 遼

 すずかけ二丁目の交番に勤める巡査。高校を出て大学へ進み、社会心理学を学んでいましたが、高校時代から交際していた亜紀が21歳の時、痴漢に遭って、一緒にいた自分がそれに気づかなかったという出来事がきっかけとなり、人を守れる優しく強い人間になりたい、と強く決心し、迷わず警察官への道を歩み始めました。

 正義感に溢れ、思いやりのある彼は、上司から抜擢されて25歳で巡査長となり、高卒後警察学校に入学してきた日向 夏輝の実習指導員として、彼女の実戦実習を監督、指導しました。

 警察官として修養が勧められている剣道の腕前は三段。秋月が通う道場には夏輝のパートナー修平も通っていて、彼は秋月を先輩と呼び尊敬しています。

薄野 亜紀(すすきの あき)

薄野 亜紀

 高校卒業後、地元の短大を出て、いくつかのアルバイトをして過ごしていた亜紀は、その後高校時代からつき合っていた秋月 遼が勤める交番のあるすずかけ町の小さなアパレル会社に就職しました。その恋人遼とは結婚の約束をしたわけではありませんでしたが、二人とも当然自分たちはそうなるだろう、と考えていたのです。

 しかし、この町に来て2年目の秋に、彼女は遼から別れを告げられ、しばらくはなんの目的もない一人身の生活を送ります。

 表面上はなかなか気の強い一面が目立つ亜紀ですが、実際には折れやすく、従姉妹の北原拓海には、あんたは一人では生きていけないオンナだ、恋人か夫がいなきゃ立ってることもできないんじゃない? と事ある毎に言われていた程です。

《雨が雪に変わる夜に》

 高校時代からつき合っていて、3年前に別れた遼と亜紀。しかし、二人ともお互いへの想いは強く残っていた。

 大好きなのにその気持ちを伝えきれなくてもがく遼、彼の気持ちを確かめるのが怖くてアクションを起こせない亜紀。

 二人を取り巻く友人や同僚たちが二人を見てやきもきするも、なかなか話が思うように進展しない。

 みぞれ交じりの雨の夜、ずぶ濡れになりながら、失踪した亜紀を探し当てた遼は、ついに彼女の身体を再び抱きしめることができたのだった。

小説『雨が雪に変わる夜に』はこちら


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