《6.神父尊の独白》

 

 このシリーズ中、最も異彩を放っているエピソード10。基本的に主人公たちがあつあつの関係を見せつける物語の中で、唯一、主人公が過ちを犯してしまうこのエピソードは、実は僕自身の体験が元になっています。

 僕が二十二歳の時、付き合っていた彼女がこの話の中の真雪と同じように、妻子ある男性と同衾してしまいました。アルコールが入っていたとは言え同意の上、しかも一晩では終わりませんでした。その頃は、僕は大学生で一人暮らし、彼女は会社の寮暮らしと、距離的に離れて暮らしていましたから、数ヶ月に一度ぐらいしか会うことができない状態でした。

 それがわかったのは、彼女が僕を訪ねて来て、ベッドでの営みを終えた後、彼女が泣きながら告白したことからでした。僕は胸が締め付けられるように熱くなり、相手の男性が許せない気持ちになりました。生まれて初めてあんな激しい嫉妬心を覚えたのです。

 結果的に僕を「裏切った」彼女にも少しばかりの怒りはありましたが、泣きながら謝る彼女を責めることができませんでした。どちらかというと、この女性を手放したくない、人の手に触れさせたくない、という気持ちが一番大きかったように思います。結果彼女は会社を辞め、僕と同棲することになりました。

 その過ちの時、やはり物語中の真雪と同じように、彼女を抱いた男は避妊をしていませんでした。僕は彼女とのセックスの時は必ず避妊具を使っていたのに、どうしてその男には許したのか、それが一番僕の心を苦しめました。それは今思えば一人の「女」を巡っての雄の闘争心からくるものだったのだと思います。彼女を何としても自分だけのものにしておきたい、という、半ば野性の本能が、僕の心をかき乱し、叫び出したくなるような強烈な怒りを招いたのだと思います。

 幸い彼女は妊娠しませんでした。その後もその男性と会うこともありませんでした。しかし、寮の同僚からもその不倫を糾弾されたにも関わらず、その後数回の関係を持った彼女の気持ちは、未だもって僕にはわかりません。離れて暮らしている僕への愛情が薄れていたのかもしれませんし、大学生活を送る中で、多くの女子学生とも接点のある僕の状況に心悩ましていたのかもしれません。そして、もしかしたら本当にその男性に本気で恋心を抱いていた可能性もあります。少なくとも身体を許した、ということは、少なからずそういう気持ちがあったことは間違いありません。

 僕は今でもそのことを思い出す度、胸が熱くなり、その中心を針で刺されるような痛みを感じます。