Twin's Story 7 "Milk Chocolate Time"

第1章 1.拘束・汚辱 - 2.浄化 - 3.成長 / 第2章 1.牧場と露天風呂 - 2.撮影会・大人の夜 - 3.初めて一つに - 4.銀河の下で

-第2章 4《銀河の下で》-

 

 旅行から帰ってきた日の晩。ケンジたちの寝室で龍とケンジが顔を突き合わせ、パソコンのモニターを食い入るように見ていた。

 

「何してるの? 二人で、随分熱心だね」部屋を覗いたミカが言った。「コーヒーでも飲む?」

「飲む」ケンジが振り返らずに言った。

「僕も」龍も言った。

「おや珍しい。龍がコーヒー飲むの初めてじゃない?」

「いけませんか? 母上。僕がコーヒーをいただいちゃ」

「別にいいけど……。で、一体何を見てるの?」ミカが二人に近づき、モニターをのぞき込んだ。「なっ!」ミカは大声を出した。

「いつの間にそんな写真撮ったんだ、龍。ちょっとやり過ぎだぞ」

「何が?」

「真雪のヌードじゃない」

「そうだけど」

「何さらっと言ってるんだ」

「だって、真雪本人が撮ってくれ、って言ったんだ」

「そ、そうなのか?」

「うん」

「しかし、お前ら、食い入るように見ちゃって……。親子してスケベなやつらめ」ミカは大きくため息をついた。

「何言ってるんだ。写真のデキについて討議しているんじゃないか」

「デキ?」

「この麦わら帽子の影をもっと持ち上げないと、暗くて表情が見えないぞ」ケンジがモニターから目を離さずに言った。

「かといってさ、日中シンクロで撮っちゃうと、他の部分が明るくなりすぎて不自然だし、真雪の肌が白飛びするよ」

「それもそうか」

「やっぱりレフ板が必要だね、こんな時は」

「そうだな、太陽光の下で撮る時はコントラストが強く出過ぎるな」

「特に夏だしね」

 

 ミカが腰に手を当てて言った。「驚き。龍、いつのまにそんなに写真に詳しくなったの?」

「好きな被写体を美しく撮りたいっていうエネルギーが、僕をしてカメラの勉強を進んでさせる原動力になっているのですよ、母上」

「なに気取ってるんだ。コーヒー淹れてくるから待ってな」

「お前の好きな被写体ってのは真雪のことだな」

「当たり前じゃん」

「しっかし、よく真雪がお前にヌードを撮らせてくれたな」

「だから、真雪が先に提案してきたんだって言ったでしょ」

「にわかには信じられん」

「考えてもみなよ。僕が『ヌード撮らせて』なんて言ったら、一気に引かれるよ。って普通思うだろ?」

 

 ミカがトレイに三つのカップと香ばしい香りのコーヒーが入ったデキャンタを載せて部屋に入ってきた。

「ミカ、この写真見てみろよ」ケンジが促した。ミカは二人の背後に立ってモニターを見た。「どれどれ……」

「ちょっと良くないか?」

「ほんとだね。真雪の表情がとっても自然でかわいいね」

「これは、視線の先にいる人物を信頼しきっている目だ」

「そしてその人に熱い想いを抱いている、って感じだよね。写ってない真雪の『想い』までちゃんと表現できてる」

「雑誌のグラビア以上だ。写真展レベルだな。龍、お前いい写真撮るようになったな」ケンジが龍の頭を乱暴に撫でた。

 龍は照れ笑いをした。「真雪は最高の被写体だよ。僕にとって。もちろん、父さんたちに買ってもらった、あの一眼レフカメラのお陰でもあるけどね」

「とってつけたように言うな」ケンジが笑った。

 

「それにしても、」ミカがコーヒーのカップを龍とケンジに手渡した。「龍も真雪を呼び捨てにするようになったか」

 ケンジがコーヒーを一口飲んでから言った。「それに、なんか、口の利き方が随分大人びたように思えるんだが」

「ああ、あたしもそれは思った」

「あなたがた両親のお陰です。あの事件とこの旅行で、僕は一回りも二回りも大きくなりました」

「お前を成長させた人がもう一人いるだろ?」ミカが言った。

「はい。最後に付け加えようと思っていました。真雪シンプソン嬢が、僕を心も身体も大人にしてくれた一番の恩人でございます」

「そのシンプソン嬢、そろそろ風呂から上がる頃だぞ」

 その時、浴室の前の廊下から声がした。「ミカさん、上がったよ。お先に」

「真雪っ!」龍は椅子を蹴飛ばして立ち上がり、どたどたと寝室を出て行った。

 

 

「楽しかったね」リビングのソファに座った真雪が、タオルで髪を拭きながら言った。

「うん。とっても」龍も真雪の隣に腰を下ろした。「何か飲む?」

「うん」

「何がいい? 冷たいものがいいよね?」

「そうだね」

 その時、ミカがカップを手にやってきた。「ほら、お前飲みかけだぞ、コーヒー」

「あ、ごめん。ありがとう」

「真雪、カフェオレ、作ってやろうか? せっかく土産にミルク買ってきてるからさ。丁度コーヒーも淹れたところだし」

「いいね。あたしが作るよ、ミカさん」タオルを首に掛けたまま真雪は立ち上がりキッチンに入った。「みんなも飲むでしょ?」

「悪いね」ミカが言った。

 

「母さんも年上なんだよね、父さんより」龍が訊いた。

 ミカが龍の前に座って顔を上げた。「2歳上だ」

「どんなものなの? 年下の彼氏って」

「そうだな……。世話を焼きたくなる、って言うか、甘えさせたくなる、って言うか……」

「父さんもそんな?」

「時々そんな感じになることはあるね。でも、それはあの人の性格かも。すっごく照れ屋だしね。そういうところはあたし好き」

「そうなんだ」

「大胆不敵で威張ってるやつはむかつく」

「そりゃあね」

「父さんはその対極だね。でも、もっと大胆になったら? って思うことも時々あるよ」

「母さんが大胆だから釣り合いがとれてるんだと思うけどな」

「そうかな」

「二人とも大胆だったら、僕、気の休まる暇がないから」

「そりゃそうだ」ミカは笑った。

 

「お待たせ」真雪がトレイに4つのボウルを載せて持って来た。「ケンジおじもこっちに来なよ」

「わかった。今行く」寝室から声がした。

「このカフェ・オ・レ・ボウルも買ってきたの?」

「ああ、あの牧場でね」

「なかなか本格的だね」

「へえ、これ『カフェ・オ・レ・ボウル』って言うんだ。変な入れ物」龍がそれを持ち上げて言った。


「ねえねえ、」龍の横に座り直した真雪が言った。「あたし、やってみたいことがあるんだけど」

「どうした? 真雪、目が輝いてるぞ」

「龍をいじっていい?」

「いじる? そんなことは自分たちの部屋でやれよ」

「ミカさんやケンジおじにも見てもらいたくてさ」

「何なんだよ、一体……」龍がボウルを口に運びながら言った。

「脱いで、龍」

「ええっ?!」

「上だけでいいから。お願い」

「な、何する気なんだよー」ぶつぶつ言いながら龍は着ていたスリーブレスのシャツを脱いだ。

 真雪は自分のポーチから銀色の小さな箱を取り出した。「立って、龍」

「え? うん……」

 

 龍を立たせた真雪が手に持っているのは二枚の絆創膏だった。

 

「な、何だよ、それ……」龍が怪訝な表情で言った。真雪はそれを龍の二つの乳首に貼り付けた。

「は? 何これ?」龍が言った。

「ついでにここにも」真雪はもう一枚絆創膏を取り出して、龍の右頬に貼り付けた。

「…………」龍は困ったような顔をした。

「やった、やった!」真雪ははしゃいだ。

「真雪はショタコンだったか」ミカがカフェオレの入ったボウルを手に取って言った。

「な、なんでこれがショタコンなんだよ」

「知らないの? 龍、少年の乳首に絆創膏って言ったら、BLの超定番スタイルじゃん」

「意味がわかりませーん」

「年下やんちゃ系好きっ! 萌えるっ!」真雪はいきなり龍に抱きつき、その唇に自分の口を押しつけた。

 

「むぐ……、んんん……」龍は目を白黒させて呻いた。

 

「何やってんだ、二人で」ケンジが一枚のA4サイズの写真を持ってリビングに入ってきた。そして抱き合っている息子と姪を見て頬を赤らめた。「お、お前ら、人目も憚らず……」

「そうだそうだ。何もあたしたちの目の前でやんなくても。上でやれ、上で」ミカが笑いながら言った。

 龍から口を離した真雪が言った。「人目のあるところでこんな格好させれば、龍はきっと照れて赤面するでしょ?」

「あ、当たり前だよ」龍は全身赤くなってソファに座った。

「その様子が見たかったんだ、あたし」

「へんなシュミだな。真雪」龍がぼそっと言った。

「龍が年下でよかった」

「そのマイペースな大胆さ、何だかミカとそっくりだな、真雪……」ケンジがぽつりと言った。

「龍との釣り合いがとれてていいじゃない」ミカが言った。

「ところで、その写真、何?」ミカが訊ねた。

「ああ、さっきのだよ。ほら、真雪にやるよ」

 それは草原をバックに、オールヌードで微笑んでいる真雪の姿だった。

「わあ! 龍、きれいに撮れてる! うれしい、ありがとうね」真雪はその写真を手に取ってはしゃいだ。「また撮ってね」

 

 玄関で靴を履き終わった真雪が振り向いた。

「それじゃ、またね、ミカさん、ケンジおじ」

「ああ、遅くまで付き合わせて悪かったね。真雪」

「じゃあ、送ってくね」龍が言った。

「寄り道せずに、ちゃんとまっすぐ送り届けるんだぞ」

「わかってるよ」

 

 真雪と龍は玄関を出た。そしてどちらからともなく手を握り合い、暗くなった道を歩き出した。

「真雪、いろいろありがとう。とっても楽しかった」

「あたしも。すっごくいい思い出になった」

「ねえ、真雪、」

「何?」

「僕のこと、どう思ってる?」

「え? 何? 今さら何でそんなこと訊くの?」

「ごめん、なんか、いつも確かめてたいんだ。君の気持ちを」

「何度訊いても答は同じだよ」

「うん」

「大好きだよ、龍」

「僕も」

 

 二人は歩みを止めて向き合い、唇同士を重ねた。

 

「ごめん。僕って臆病なのかな……。しつこいと嫌われちゃうね。もう訊かない」

「いいよ、龍、何度でも訊いて」

「え?」

「そうすればあたしも何度でも好き、って言えるから」

 

 遥かかなた、夜空を大きく横切る銀河が龍と真雪を見下ろしている。二人はまた手をつないで歩き始めた。

 

2013,8,4 最終改訂脱稿

 

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《Milk Chocolate Time あとがき》

 終わりまで読んで頂いたことに心から感謝します。

 のっけから龍にヒドイことをしてしまった、と今になって後悔することも。『Chocolate Time』シリーズ第二期のスタートとしては、かなりショッキングな内容になってしまいました。

 学校の教師がみんなこうではないということを、きちんとお断りしておきます。飲酒運転やわいせつ行為が起こると、さも、全国の学校教師がそうであるかのようにマスコミや世論に叩かれ、その度に不祥事防止の研修だ、誓約書だ、と仕事を増やされている善良な教師の皆さんには、心から同情しているところです。職業別に見ると、教師の犯罪率は、他の職種に比べると極端に少ないという事実もあります。しかし、警察官や各種公務員と共に教師もかなり厳しい目で見られていることも事実ですけどね。

 沼口に乱暴されたことは、龍にとって、大切な初体験を奪われた、という気持ちにもなったのかもしれません。そういう彼の姿を見て、真雪が彼に身体を預ける決心したのもそのあたりの気持ちを察したからでしょう。この事件がなければ、龍と真雪の初体験は、もう少し後になっていたかもしれません。

 もちろん、龍にとっては、その忌まわしい事件による心の傷を真雪が癒してくれたことは事実ですし、そのことで、真雪への恩も強く持つことになる。とても若いのに彼女と相対する時の龍の心遣いや気配りは、自分を精神的に救ってくれた彼女への感謝の気持ちが大きく影響しています。

 真雪はマユミの娘ですが、マユミに比べるとかなりおおらかで大胆なところがあります。それはケネスの血が混じっているからかもしれませんが、自分の思いをストレートに表現することができる娘です。龍も、父親のケンジに比べると、かなり活発な印象です。それも母親のミカの遺伝子のせいかもしれません。

 二世を登場させることで、気づいたことがあります。それは、例えば息子だからと言って、父親と同じではないということを描いたり、逆に父親に似ていることを強調したりすることで、物語が広がり、面白くなっていく、ということです。龍は容貌はケンジにそっくりです。誠実な所も、たぶん親譲り。父親と息子、と並べて見れば、確かに龍は大胆な男ですが、いや、ケンジだって、若い頃はかなり大胆だったわけですからね。何しろ実の妹と抱き合ってたぐらいですから。

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