Twin's Story 8 "Marron Chocolate Time"

《4 春菜の想い》

 

 春菜は一人、『シンチョコ』の入り口ドアを開けた。カランコロン……ドアにつけられたカウベルが鳴った。

「いらっしゃいませ。あれ、春菜」振り向いた真雪が彼女に近づいてきた。

 『シンチョコ』というのはこの町の老舗スイーツ店『Simpson's Chocolate House』の愛称だ。経営者はケネス・シンプソン。健太郎、真雪兄妹の父親である。

 ケネスは海棠ケンジと高校時代からの親友同士。ケネスの妻はそのケンジの双子の妹マユミである。

 

→『Simpson's Chocolate House』について

 

 春菜が少し緊張したように言った。「真雪、店手伝ってるんだね」

「うん。休日はだいたいね。何? 何か買いに来たの?」

「え? う、うん」

「どうしたの?」真雪は春菜の顔をのぞき込んだ。「もしかしてケン兄に会いに来た、とか」

「えっ?!」春菜は顔を上げた。「ひょ、ひょっとして夏輝から聞いたの?」

「聞いたよ。でも、本当なの? 春菜。夏輝がまた一人で突っ走って勝手なこと言ってるんじゃないの?」

 

「……本当なの」春菜はうつむいて赤くなった。

 

「そっかー。でもケン兄にはもったいないね、春菜は」真雪は笑った。「あの人、結構ずぼらだよ、優柔不断だし。呼んで来ようか? ケン兄」

「え? いや、いい、いいよ。大丈夫」春菜は慌てて言った。

「今たぶん部屋にいると思うけど」

「本当にいいの。そ、それより真雪、ちょっと話す時間、あるかな」

 

 ずっと赤くなったままの春菜を見て、真雪は微笑みながら言った。「いいよ。じゃあそこのテーブルで待ってて」

「ごめんね」

 

 真雪は店の奥に入って行った。春菜は店の隅の喫茶スペースに並べられたテーブルの一つに向かって座った。その時初めて春菜は店中に充満しているチョコレートの匂いに気づき、目を閉じて深呼吸をした。嗅ぎ慣れているはずのその匂いが、春菜にはいつもに増して甘く、かぐわしく感じられた。

 

 すぐに真雪が戻ってきた。手に持ったトレイには二つのティカップとチョコレートの小皿が乗っていた。

 

「はい、食べて」真雪も春菜の向かい側の椅子に腰掛け、トレイをテーブルの真ん中に置いた。

「え? 悪いよ、こんなことまでしてもらっちゃ」

「いいのいいの。遠慮しないで。これ、うちの今年の秋の新製品。マロン・チョコ」

「マロン・チョコ?」

「そ。小粒のマロングラッセをスイートチョコでコーティングしたの。10月発売開始予定なんだ。感想を聞かせて。春菜がモニター第一号」真雪は笑った。

「光栄だな。いただきます」

 

 春菜はその形のちょっといびつな丸いチョコレート菓子をつまみ、口に入れた。

 

「おいしい! 中身がすっごく柔らかい。マロングラッセって、もっとごろごろしてるイメージがあった」

「それ作るのに二週間かかるんだって」

「二週間も?!」

「栗を甘く、柔らかくするためには、そのくらいかけないとダメなんだって。お酒もちょっとだけ入ってるんだよ」

「時間がかかるんだね、それにお酒も……。だからこんなに上品に甘くて、芳醇な香りを発するようになるんだ……」春菜は感心したようにそうつぶやいた。

 

「で、何かあたしに手伝えること、ある?」

「そう。あ、あのね……」春菜は持っていたバッグから一枚の紙を取り出した。それははがき大のケント紙だった。彼女はそれを黙って真雪に手渡した。

「わあ!」真雪はそれを手にとって見た瞬間驚嘆の声を上げた。「すごい! ケン兄の絵」

 

 それは健太郎の制服姿の全身を描いた鉛筆画だった。半袖のワイシャツ越しの逞しい筋肉、充実した腰、そして長い脚。真雪が見てもほれぼれするような、まるでモデルのような兄の絵だった。そして何より真雪を感動させたのは、描かれた健太郎のこぼれんばかりの笑顔だった。それは、真雪が小さい頃、一緒に遊んでくれていた時に見せたような無邪気な兄の笑い顔だった。

 

「ケン兄だ、まさしくケン兄だよ!」

 春菜がゆっくりと口を開いた。「私、シンプソン君の身体が好きなの」

「えっ? か、身体?」

 春菜は慌てて言った。「い、いや、変な意味じゃなくて、その、プロポーションって言うか、彫刻みたいな理想的な身体っていう意味だよ」

「ああびっくりした。でもわかるよ。さすがデザイン科のトップを独走する春菜だね」

「そ、それでね、」春菜はもじもじし始めた。「あ、あの、」

「何?」

 春菜はおどおどした様子で前に座った真雪を上目遣いで見ながら蚊の鳴くような声で言った。

「シンプソン君の、ヌ、ヌードを、スケッチしたいんだけど」

 真雪は意表を突かれたように軽く仰け反った。

「おっと! そう来ましたか」

「だ、だめかな、だめだよね、やっぱり……」春菜はひどく申し訳なさそうな顔をしてため息をついた。

 真雪はにこにこしながら言った。「いいよ。あたしが頼んであげる」

「え? ほんとに?」春菜は思わず顔を上げた。

「イヤとは言わせないよ。任せて」真雪はウィンクをして見せた。

「あ、ありがとう、真雪。感謝する」

 

「ちょっと待て!」

 健太郎は大声を出した。

「何? 何か問題でも?」

 

 その晩、真雪は健太郎の部屋を訪ね、いきなり春菜からのヌードモデル依頼の話を切り出したのだった。

 

「問題大ありだ」

「なんでよ。単純に服を脱いで立ってればいいだけじゃん」

「そ、そんな簡単にいくか! だいたい、」「これが逆の立場だったら大問題だろうけど、ケン兄が裸でモデルになるわけでしょ? 何の問題もないじゃん」真雪は赤くなって主張する健太郎の言葉を遮って言った。

「そ、そんなこと言っても……」

「協力してあげなよ。うちの学校の偉大な芸術家のためにさ。それとも何?」

「何だよ」

「モデルやってるうちにムラムラきて、春菜を押し倒しそうになる、とでも言うの?」

「そんなわけあるかっ!」

 

 真雪は立ち上がった。「じゃあ、今度の土曜日に、下の暖炉の前でね」

「か、勝手に決めるな!」

 部屋のドアを開けて一度立ち止まり、振り向いた真雪は念を押すように言った。「こうでもしなきゃ、ケン兄いつまでも動かないでしょ。逃げないでね」

「お、おまえなあ……」

 

 

「何っ?! ヌードモデルっ?!」修平が叫んだ。「おまえ人前で全裸になるのか?」

「ばかっ! 大声を出すなっ!」健太郎が慌てて修平の口を押さえた。ここは学校の食堂である。

「春菜さんもやるねー」

「だよな、オトコの裸をスケッチする、なんて普通女子高生は考えないよな」

「とか何とか言って、実はおまえ、嬉しいんだろ?」

「なんで俺が嬉しがらなきゃなんないんだ。恥ずかしいだけだろ」

「俺なら潔く脱ぐけどな」

「おまえと違って、俺には節操ってもんがあるんだよ」

「俺と夏輝も行って、見てていいか?」

「来るな」

「おもしろそうじゃん」

「絶対来るな」

 

 

 シンプソン家の裏の別宅。一階リビングの暖炉の前に健太郎は立っていた。ハーフパンツにノースリーブシャツ姿だった。

 

「こ、ここにこうやって立ってればいいの?」健太郎が言った。

「う、うん。ごめんね、シンプソン君。無理言っちゃって……」

「いいよ。気にしないで」

「真雪に無理矢理押し付けられたんでしょ?」

「初めはね。でも、考えてみればこんな機会、滅多にあるわけじゃないし、春菜さんが俺の身体が気に入ってくれてる、ってまんざら悪い気もしないし。少しやる気になってきた」

「ほんとに? ありがとう。私、一生懸命描くから」

「うん。この場は任せるよ。いろいろ指示して」

「わかった」

 

 春菜は健太郎から少し離れた場所に、窓からの光線を見ながら自分の位置を決めた。イーゼルを立て、スケッチブックを置いて椅子に座った。

 

「じゃ、じゃあ、シンプソン君。服を脱いでもらってもいい?」

「ぜ、全部?」

「恥ずかしい? 恥ずかしいよね。やっぱり」

「うん、ちょっと・・・」

「水着ぐらいなら着ててもいいよ。でもなるべくヌードに近い方がいいけど・・・」

「わかった。じゃあ、穿いてくる。ちょっと待ってて」

 

 健太郎は二階に上がって自分の部屋に入った。リビングで待つ間、春菜の身体は次第に熱を帯びてきた。

 

 健太郎はすぐに降りてきた。上に着ていたものを手に持ち、下着の代わりにあの時と同じ小さなビキニタイプの競泳用の水着を身につけていた。その姿を見た途端、春菜の顔は火がついたように火照り始めた。

 

 健太郎は暖炉の前に立った。

 

「す、少しの間、じっとしててね」

「わかった」

 

 少し上に向けた澄んだ目、清潔感溢れる髪、逞しい僧帽筋、三角筋、上腕筋、大胸筋、そして極端ではなく自然に盛り上がった腹筋。小さく引き締まった大臀筋。大きいが脚のシルエットを崩さない大腿筋、ふくらはぎ。そして小さな水着に覆われた膨らみ……。春菜は無心に鉛筆を動かした。

 

「ありがとう」春菜は沈んだ声で言ってため息をついた。「もういいよ。服着ても」

「もう描けたの? さすが、速いね」健太郎は床に置いていた服を着始めた。

 

「……でもだめ。こんなんじゃ、だめ……」春菜はたった今描いた紙を乱暴に引きちぎった。

 

「え?」健太郎は服を着る手を止めて顔を上げた。

「描けない。私、今一番描きたいあなたの身体が、描けない……。悔しい」

「じゃあ、もう一回描いてみてよ」

「でも、もうあなたに恥ずかしい思いをさせたくないよ」

「大丈夫。何だか平気になってきたよ」健太郎は笑った。そして身につけかけていた服を脱いだ。「こんな身体で良ければいつでも提供するよ」

「シンプソン君……」

 

 春菜は何度も何度も挑戦した。くしゃくしゃに丸められた紙がいくつも春菜の足下に転がった。

 

 健太郎は、そうやって苦しみながら鉛筆を紙に走らせる春菜の姿を半ば驚異の目で見ていた。生まれて初めて見る、凄まじいとも言える光景だった。張りつめた精神力と妥協を許さない厳しい自己批判の目、それでも自信に満ちあふれた手の動き、額に汗しながらその小柄な一人の少女は自分が描く一枚の画と一心不乱に闘っているようにも見えた。健太郎の胸に繰り返し熱いものがこみ上げてきた。

 

「やっぱりだめだ……」春菜は鉛筆を持った手をだらりと垂らしてうなだれた。

 

 健太郎は水着姿のまま春菜に近づいた。そしてイーゼルに立てられたスケッチブック、たった今描かれた自分の画をのぞき込んだ。

「うまく描けてると思うけどな」

 

 すぐ横に立った裸の健太郎の体温がほのかに感じられた。同時にチョコレートと健太郎の身体の匂いが混ざった何とも言えない甘い香りも漂ってきた。春菜はますます身体が熱くなっていくのを感じていた。

 

「何が気に入らないの?」健太郎が春菜の顔を見た。

「あなたの、力強さやしなやかさが描ききれてない。あなたの、優しさや柔らかさが表現できてない」

「お、俺の? 力強さ……柔らかさ?」

「これじゃただのスケッチ。私が描きたいのはあなたの中にあるもの」

「俺の、中にあるもの……」

「どうすればいいかな、私、どうしたら本当のあなたを描けるかな……」春菜はぽろぽろと涙をこぼし始めた。

 

「春菜さん……」

 

「私、もっと知りたい、あなたをもっと知りたい。好きなあなたを、もっと好きになりたい!」春菜は立ち上がり、泣きながら健太郎の腕に指を這わせた。そして鎖骨、厚い胸板に両手をそっと当てた。

 

 健太郎は身動きせずじっと立っていた。春菜の指が腹筋をなぞり、太股に触れた。

「健太郎君の、全てを……好きになりたい……」

 

「は、春菜さん……」健太郎はやっと小さく声を出した。春菜がゆっくりと顔を上げて、潤んだ眼で健太郎の眼を見つめた。それは、さっき自分の画と対峙していた時の厳しい眼とは別人のような、一人の可憐な少女の純粋なまなざしだった。

 

 健太郎は春菜の頬を両手で包み込み、静かに唇を重ねた。春菜の流した涙の味がした。ゆっくりと口を離した健太郎は囁いた。「俺で良ければ……」

 

 

 健太郎は春菜を自分の部屋に通した。そして彼女をベッドに座らせた。健太郎は水着のまま、上に薄いパーカーを羽織り、春菜の横に座った。「春菜さん、」

「はい……」

「俺、オトコだから、二人きりで女のコがそばにいたら、その、何て言うか、こう、身体がむずむずしちゃって……」

「いいの。私が勝手にシンプソン君のことが好きになって、勝手に抱いて欲しい、って思ってるだけだから」春菜はうつむいたまま続けた。「だから、あなたが私のことを別に何とも思ってなくても、私は平気。仮に私の身体だけが目当てだとしても、私、平気だから……」

「俺さ、」健太郎が言った。「今の同級生見てて、先のこと何も考えずに、その場の雰囲気だけで生活してるやつらを見てると、すっごくむかつく」

「え?」春菜は顔を上げた。

「一つのことに集中する、って言うか、真剣味、というかさ、自分の自信のあることに突き進む、っていうエネルギーがない、そう思う。でも春菜さんは違う」

「わ、私だって、ただ絵を描くことが好きで、そんなことばっかりやってるだけだよ」

「違うね。君は画を描くことに自信を持ってるし、それに満足しない厳しさも持っている。恥ずかしいことに、俺、そのことをついさっき知った」健太郎は春菜を見た。「俺、そういう人を尊敬する」

「そ、尊敬だなんて……」春菜はまたうつむいた。

「今日、君に描いてもらった絵に、俺が何かを吹き込むとしたら、」健太郎は一度言葉を切って、声を落とし躊躇いがちに言った。「君の想いに応えること……かもしれない」

「応える?」

 

 健太郎は春菜の目を見つめた。「俺も、正直、君のことがすごく気になり始めた」

「健太郎君……」

 健太郎はすぐに目をそらし、赤くなって頭を掻いた。「ご、ごめん。今までろくに話したこともなかったくせに、いきなりこんなこと……」

「うれしい……」春菜は囁くように言って、同じように頬を赤く染めた。

 健太郎も小さな声で言った。「いいの? 俺なんかで」

 春菜はコクンとうなずいた。

 

 健太郎は春菜の両肩を抱いて、そっと唇同士を重ね合わせた。「ん……」春菜は目を閉じた。

「眼鏡、邪魔にならない?」健太郎が耳元で囁いた。

「そのままでいい? 私、あなたをずっと観察していたいから……」

「そう」健太郎はぎこちなく微笑んだ。

 

 健太郎は春菜の身体をゆっくりとベッドに横たえ、羽織っていたパーカーを脱いだ。彼は再び小さな水着だけの姿に戻った。「かなり恥ずかしいものがあるから、ほどほどに観察してよ」

「うん」春菜は微笑んで小さくうなずいた。「私のことも、もっと見て、健太郎君」

「わかった」

 

 健太郎は春菜のシャツをゆっくりと脱がせた。薄いピンク色のブラの中で春菜の乳房ははち切れそうだった。「私、今、胸の中がとっても熱くなってる。こんなこと……初めて」消え入りそうな声で春菜は言った。

「そうみたいだね。わかるよ」

 

 健太郎は春菜のキュロットスカートのベルトを外し、ホックを外した。春菜は腰を持ち上げた。そして健太郎はゆっくりとそれを脱がせていった。レースで縁取りされた小さなショーツも薄いピンク色だった。

 

「これで、俺と同じ」

「そうだね」春菜は小さな声で言った。

「俺、初めてじゃないけど……」

「え? そうなの?」

「うん。で、でも今つき合ってる彼女がいるってわけじゃないから。もちろん」

「いいの。私あんまり気にしない。あなたが経験済みってことは想定内」

「ごめん。俺、チャラいオトコだって思われたかな……」

「思わない。健太郎君はそんな人じゃないってことは見ててもわかるし、夏輝もそう言ってた」

「そうなんだ……。ありがとう」

「私は初めてだけど、良かった。健太郎君が経験者で」

「え? なんで?」

「だって、何にもわからない私を、あなたがリードしてくれるから」

「そんなに経験豊富じゃないよ、俺」健太郎は照れ笑いをした。

「私、安心してあなたに身体を預けられる」

「春菜さん……」

 

 健太郎は仰向けになった春菜の唇に自分の口を重ねた。そしてゆっくりと吸った。上唇をちょっとだけ舐め、その口に舌を差し入れた。春菜の口はすでに半開きになっていて、健太郎の舌を少し震えながら受け入れた。

 健太郎はキスを続けながら左手を彼女の背中に回し、ホックを外した。そして口を離すとそのまま両手でゆっくりとそのブラを腕から抜いた。春菜は思わず自分の胸を手のひらで覆った。健太郎は手首を持って、そっと春菜の手をどけた後、露わになった二つの乳房を交互に手でさすり、乳首を舐めた。

 

「あ……」春菜の呼吸が荒くなってきた。

 しばらくして乳首を咥えていた口をチュッという音をさせて離すと、健太郎は顔を上げて春菜の目を見つめた。「ここまでなら、まだ引き返せるけど……」

「え?」

「オトコってやつは、臨界点を超えると、もう最後までいかなきゃ収まらなくなる。今、俺、正直臨界点直前なんだ」健太郎は上気させた顔で申し訳なさそうに笑った。

「大丈夫。私平気。あなたを受け入れるのに何の不安もないよ」

「優しくするから」

 春菜は切なそうに微笑んだ。「遠慮なく臨界点を突破して」

 健太郎はベッド脇のサイドボードの小さな引き出しを開けて正方形の小さな包みを取り出した。そしてそれをベッドの枕元に置いて、穿いていた水着を脱ぎ去った。それから春菜のショーツもゆっくりと脱がせた。春菜は思わず目を閉じ、身体をこわばらせた。

「怖い?」

「う、ううん。大丈夫……」

「深呼吸して」

「うん」春菜は少し震えながら大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。健太郎から発せられる甘い香りが身体の中に充満していく感じがした。

 

 健太郎は春菜の股間に顔を埋めた。

「あっ!」春菜が小さく叫んだ。「は、恥ずかしい……」

 彼は静かに彼女の谷間に舌を這わせ始めた。

「あ、ああっ!」時折びくん、びくんと身体を反応させ、春菜は喘いだ。

 

 健太郎の舌がクリトリスを捉えた。

「いやっ!」春菜が身体をよじらせた。

 健太郎はとっさに顔を上げた。「ごめん、やり過ぎだった? もうやめようか?」

 春菜は薄目を開けて言った。

「ご、ごめんなさい、健太郎君。大丈夫、あなたのやりたいようにやって」

「痛かったり、気持ち悪かったりしたら、ちゃんと言ってね」

 春菜は少し震える声で言った。「も、もう臨界点超えてるのに、やめられるの?」

「大丈夫。君がいやなら一人ででもできるし」健太郎は頭をかいた。

「いいよ。あたしも大丈夫。最後までいって。健太郎君」

 

「何をされたら心地いい? 春菜さん」

「え?」

「気持ちいいって思うこと、どんなこと?」

 春菜は頬を赤く染め、困ったように消え入るような声で言った。「わからないよ……そんなこと。初めてなんだし……」

「それもそうだ」健太郎は頭を掻いた。

 

「でもね、」春菜は言葉を選びながら続けた。「私、あなたの裸見た時、とっても身体が熱くなった。もしかしたら、ヌードモデルを頼んだのも、そんなあなたをもう一度見たかったからかもしれない」

「だから眼鏡、ずっと外さないんだね」

「あなたをずっと見ていたい。なにが気持ちいい? って訊かれたら、今はそれが一番かも」

 健太郎は顔を上げて不思議そうな顔をした。

「今からあなたが私を優しく触ってくれたり、刺激してくれたり、そして私と繋がって一つになってくれる姿を、私ずっと見ていたい」

「そうなんだね。わかった」健太郎は微笑んだ。「じゃあ、そういう体勢になろうか」

「え?」

「俺が下になるから、春菜さん、上に乗っかってよ。そうすればずっと俺の身体を見ていられるから」

 春菜は焦ったように言った。「う、上に乗っかる?」

「気持ち良くなって喘いだり、快感に耐えたりする表情を見られるの、オトコとしては、ちょっと恥ずかしい気もするけど。それに、このスタイルの方が君のペースでできるから」

「そ、そうなの……。ごめんね、健太郎君、いろいろ気を遣わせちゃって」

「気にしないで」

 健太郎は一度春菜から身を離して、枕元の小さなプラスチックの包みを手に取った。

「あ、健太郎君、いいの」春菜が慌てて言った。

「え?」

「それ……使わなくても……」

「え? だって、」

「大丈夫なの、今は」春菜は恥じらいながら言った。

「で、でも……」

「心配しないで。本当に大丈夫なの。私、ちゃんと体温も測ってるし、間違いないから」

 しばしの沈黙の後、健太郎は春菜の目を見つめながら静かに口を開いた。

「春菜さん、これは男としての義務。君は俺に気を遣うことなんかないよ。初めてなんだし」

「だけど、健太郎君、そのままの方が気持ちいいんでしょ?」

 健太郎はふっと笑った。

「どんなに君が心配ないって言っても、妊娠の可能性はゼロじゃない。そういう不安を残したまま君を抱きたくないんだ」

 春菜は泣きそうな顔で健太郎を見つめ返した。

 健太郎は手で柔らかく春菜の頬を撫でながら言った。「このままずっと俺たちがつきあい続けて、お互いの心も身体も十分知り尽くしたら、遠慮なく君と何もなしに繋がれる。それまで待って」

 健太郎のその温かな笑顔に、春菜はこれ以上無理を言うのはやめようと思った。

「健太郎君……」

「今日はとにかく俺に任せてよ」

 そう言って健太郎は包みを破り、ゴムを取り出すと慣れた手つきで熱く屹立した自分のものにかぶせた。

 

 仰向けになった健太郎が言った。「もし、君がいい、って思った時、俺、君の中に入るから。いやだったらそのまま出すよ」

「私、がんばる」

「本当に無理しないでね」

 春菜はこくんと頷いた。

 

 春菜は健太郎の身体に跨がった。そうしてもう一度大きく深呼吸をして、大きくなった健太郎のペニスの上に腰を落とした。しかしまだ挿入されていない。「しばらくそのまま腰を動かしてごらんよ。前後に」

「え? こ、こう?」春菜は健太郎に言われた通りに腰を前後に動かし始めた。健太郎のペニスを上向きに押さえつけたまま、挿入させずに自分の谷間にこすりつけた。「あ、ああん……」

「どう?」

 

 腰を動かす度に健太郎の大きなペニスが自分の谷間や敏感な粒を外から刺激し、春菜の身体はどんどん熱くなっていった。

 

「な、何だか気持ち良くなってきた……みたい」

 股間がしっとりと濡れてきたのを健太郎も感じていた。春菜の中が潤い始めた証拠だった。「け、健太郎君、何だか中が熱い、私のお腹の中が熱くなってる……」

「受け入れられそう?」

「い、いいよ、私の中に来て、健太郎君……」

 

 健太郎は自分のペニスに手を添えた。「もう一度腰を浮かせて」

 春菜が腰を浮かせた。健太郎はペニスの先端に自分の唾液を塗りつけ、彼女の谷間に当てた。「そのままゆっくり、腰を落として」

 

 春菜はまた大きく深呼吸をして少しずつ腰を落とし始めた。

 

「痛くないように、ゆっくりとでいいから」

「う、うん……」春菜は苦しそうに呻いた。

 

 長い時間をかけて、春菜は健太郎のペニスを迎え入れた。二人の腰が密着した。

 

「大丈夫? 春菜さん、痛くない?」

「ちょ、ちょっとだけ、何だか……」

「痛い? 気持ち悪い?」

「ううん。初めてで、何がどうなのか、よくわからない」

「少しずつ動いてみてよ。君が気持ちいいって感じるように」

「わ、わかった」

「痛くて我慢できなくなったら、遠慮しないで離れていいから」

「だ、大丈夫」

 

 春菜は小さく腰を動かしては止めることを繰り返した。「んっ……」春菜はまた苦しそうな顔をした。

 

 健太郎は目を開けてそんな春菜の姿を見上げた。自分自身は身体を全く動かさず、彼は動きの全てを春菜に任せていた。

 春菜の腰の動きが少しずつ大きくなっていった。「ああ、あああ・・・何だか変な感じ……」

「もっと動いてごらんよ、ん、んっ……」健太郎の身体も熱くなってきた。

 

 春菜はいつしか顔を上気させて大きく腰を動かし始めた。二つの白い乳房も大きく揺れている。「ああ、ああああ……け、健太郎君!」

「は、春菜さん、あ、あああああ……」

「ああ、な、何だか変になりそう! 熱い、中が熱い、あああ……!」春菜はぎこちなくも、大きく腰を上下に動かし始めた。激しく春菜の中に出し入れされ、健太郎の興奮は最高潮に達した。

 

「で、出る! 春菜さんっ! イくっ! ぐううっ!」

 健太郎は激しく仰け反った。「うあああっ!」

「け、健太郎君っ! あ、ああ、あああああっ!」春菜の動きが止まり、代わりに細かくぶるぶると震え始めた。「いやあーっ!」

 

 健太郎のペニスは激しく何度も脈動しながら、その体内に渦巻いていた熱い液を薄いゴムの中に迸らせた。

「あああああーっ!」春菜は大きく目を見開き、宙を見据えた。

「んっ、んんっ!」健太郎もぎゅっと目を閉じ、その快感に耐え続けた。

 

 春菜の身体が健太郎に倒れ込んだ。健太郎は膝を立てた。春菜は肩で大きく息をしていた。

 健太郎は彼女の背中に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。「あっ! け、健太郎君っ!」春菜の身体がまたがくがくと震えた。

 

 

 健太郎の息と鼓動が落ち着きを取り戻した時、春菜は腰をもぞもぞさせ始めた。健太郎は脚を伸ばしてまだ熱の冷めやらないペニスをゆっくりと抜き去った。そして春菜の身体をベッドに仰向けに横たえた。それから健太郎はティッシュを数枚手に取り、そっと春菜の秘部を拭った。

 

 健太郎は自分の出した液で大きく膨らんだコンドームを外して口を結び、数枚のティッシュに包んでゴミ箱に入れた。

「痛くなかった? 春菜さん」

「ううん。思ってたよりも痛くなかった。でも、」

「でも?」

「正直に言うね」

「うん。言って」

「違和感があった、すごく」

「違和感?」

「何て言うか、自分の身体の中に何かが入ってくるなんていう経験、初めてだったから」

「確かにね」

 春菜は慌てて続けた。「でも、健太郎君の身体の一部が私の中にあるんだ、って思ったらそれが逆にすっごく幸せに感じた」

 健太郎は眉尻を下げた。「……本当に俺で良かったのかな、今更だけど」

 春菜はにっこり笑った。「私、全然後悔してないよ」

「そう、良かった」健太郎はほっとしたように微笑みを返した。

「でも、健太郎君って優しすぎ」

「え?」

「だ、だって、セックスの時の男の人って、もっと乱暴だって思ってたから……」

「初めての女のコに乱暴できるわけないよ」

「きっと健太郎君、初めてのコでなくても、今みたいにすっごく優しくできるんだよね」

 健太郎は頭を掻いた。

「気持ち良かったっていうより温かくて心地よかった。健太郎君の身体。それがとってもいい気持ちだった」

「そう」

 春菜は申し訳なさそうに眉尻を下げた。「私、あなたを気持ち良くさせることなんてできなかったでしょ? 自分のことでいっぱいいっぱいだったもの」

「俺のこと、しっかり観察できた?」

「だめだった。それどころじゃなかった」春菜は赤面して小さく言った。

「そんなもんだよ」

「私、心地よくて、でもなんか身体は燃えるように熱くなってて、我を忘れちゃってた」

「それでいいんだよ。何も気にすることなしに我を忘れて没頭できればね」健太郎は笑った。

「ごめんなさい。私、今度はちゃんと健太郎君に尽くすから……」

「気負いすぎ」健太郎は笑った。

「でも……」

「焦らなくても、無理しなくても、自然に俺たち深まっていくよ」健太郎は微笑んで春菜の目を見つめた後、額に軽くキスをした。「時間をかけて」

 

「時間をかけて……。そうね。時間をかければ甘く、香りも良くなっていくんだよね」

 

「え? 何のこと?」

「何でもない」春菜は眼鏡を外して目を閉じ、健太郎の胸に頬を寄せた。

「また俺の身体、描いてよ」健太郎が春菜の髪を撫でながら言った。

「うん。もちろん」

「今度は全部脱ぐよ、俺」

「ホントに? 嬉しい」春菜は顔を上気させた。「今度描く画は、さっき描いたのとは違うものになるよ、絶対」

「そう?」

「あなたの中にあるものが描けそうだもの」

「そうか。楽しみだね」

 

 

 その夜、健太郎は海棠家のミカに呼び出された。

「おお、来たね、健太郎。まあ上がりな」

 玄関のドアを開けたミカはいつものように上機嫌で彼を迎え入れた。

 上がり框に腰を掛けて靴を脱ぎながら健太郎は顔を上げた。「ミカさん、どうしたの? 急に」

「なに、おまえといろいろ話したいことがあってね。夕飯まだなんだろ?」

「うん」

 ミカはしゃがんで健太郎の頬に手を当て、軽くもう片方の頬にキスをした。

「ちょっ! や、やめてよね、こんなところで」健太郎は赤くなって慌てた。

「どんなところならいいんだ?」ミカはあははは、と笑って腰を伸ばし、健太郎の腕を取った。

 

 健太郎はダイニングに通された。丁度ケンジがシャワーを済ませたところで、髪をタオルで拭きながら缶ビールを片手にテーブルに向かって腰掛けた。

「よお、健太郎。調子はどうだ?」

「なに? 調子って。一昨日スイミングスクールで会ったばかりじゃん」健太郎は呆れたように言った。

 ケンジはテーブルに身を乗り出し、にっと笑いながら声を潜めて言った。

「彼女ができたんだって?」

「えっ?!」

「しかも今日の内に深い仲に」ミカがテーブルにサラダボールを運んできて言った。

 健太郎はまた真っ赤になって慌てた。

「なっ! なんでそんなこと!」

「同級生なんだって? 春菜さんとか言う」

「ど、どうしてそんなこと知ってるの? 二人とも」

「真雪が速攻で教えてくれたんだよ」

「マユのやろー」

「ずいぶん手が早いじゃないか、健太郎」ビールを一口飲んだケンジが言った。

「そ、それは、まあ、いろいろあって……」

 

 それから健太郎は春菜に告白され、その流れで一線を越えたことを根掘り葉掘りミカとケンジに聞き出されたのだった。

 

 

「さてと」

 食事の後かたづけを済ませ、コーヒーカップを片手にリビングにやってきたミカは、センターテーブルを挟んで健太郎と向かい合った。

「話はここからが本番なんだが」

「そ、そんなに真剣な話なの? ミカさん」健太郎は少し不安そうな顔をして、手に取ったコーヒーのカップをためらいがちに一口飲んだ。

 ミカは唐突に言った。「あたしがおまえの童貞を奪った時に言ったことを覚えてるか?」

 噴き出しそうになったコーヒーをごくりと飲み込んで、健太郎はまた赤くなって慌てた。

「ちょ、な、何をいきなり言い出すかな、ミカさん」

「今日のその彼女とのエッチの時には、ちゃんとゴム着けてたんだろうな?」

 カップをソーサーに戻した健太郎は一つため息をついて言った。

「もちろんですとも、先生」

「よし」

 ミカは満足そうにコーヒーをすすった。

「ミカさんに教えてもらった通り、ちゃんと」

「もう慣れたか? 装着するの」

「慣れた、って程じゃないけど、雰囲気を壊さない程度には手際よくできるようになったよ」

「感心感心」

 健太郎は斜に構え、悪戯っぽく口角を上げた。「龍のキャリアにはまだまだ及ばないけどね」

 ミカは呆れたように言った。「確かに。もう真雪とエッチしまくりだよ、この夏」

「だろうね」

「真雪にコクられて、お互い初体験を済ませてからはもう怒濤のように」

 健太郎は笑った。

「あいつら、三日に一度はやってんじゃないか? どっちかの部屋で」

「知ってる。しょっちゅう隣の部屋から声や音が聞こえるもん」

「まったく……なりふり構わずというか……」

「龍もちゃんと使ってるんでしょ?」

「ああ、そこは感心にちゃんとしてるみたいだね」

「マユ、ここんとこなんか充実した顔してるよ。満たされてるっていうかさ」

 

「幸せなんだろうよ」ミカは肩をすくめた。「ところで、」

 ミカは少し身を乗り出して健太郎に目を向け直した。

「え?」

「その真雪から訊いたんだけど、おまえの親友の修平とかいう男にも彼女ができたんだって?」

「そう。旅行の時にも言ったけどさ、俺もちょっと気になってた夏輝」

「真雪の中学校の時からの友達なんだろ?」

「うん。学食で突然修平に告白したから俺もヤツもびっくり仰天だったよ」

「そうか」ミカは笑った。「で、真雪が心配してたんだけど、ゴムをその修平に渡しといた方がいいんじゃないかって」

「ゴムを?」

「修平、いっぱいいっぱいって感じで、いずれエッチすることになってもそんな余裕を持てない気がする、って言ってたよ。どうなんだ? 親友のおまえの見解」

「確かに……」健太郎は少し真剣な顔で顎に手を当てた。「その時になってもそこまで気が回らないかも。突っ走りやすい男だし」

「そうなんだな……いきなり妊娠させるのはNGだろ、やっぱり」

「そうだね」

「おまえから渡してやってさ、練習しとけって、言ってやんな」

 ミカは立ち上がり、寝室から一箱のコンドームを持ってきて健太郎の前に置いた。

「これを?」

「いざというときにもたもたしなくて済むように練習しとけって」

 ミカは笑ってソファに腰を下ろし、カップを手に取った。

「ありがとう、ミカさん」

「おまえから使い方を教えとけよ、ちゃんと」

 健太郎は困ったような顔をした。

「どうした?」

「いや、どうやって教えたもんかなって考えてるんだ」

「そいつの目の前で実際におまえが装着するとこ見せてやったらどうだ?」

 健太郎は真っ赤になって早口で言った。「そ、そんなことするわけないでしょ!」

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