《3.海棠 龍と海棠 真雪

 

真雪「こんにちは。」

「おじゃまします、神父尊さん。」

神父尊「ああ、龍くんに真雪ちゃん。ようこそ。さあ、座って座って。」

「失礼します。」

神父尊「あ、あの、(ちょっと照れながら)僕は、お二人にお目にかかれて、と、とっても光栄です。」

「どうしたんですか?何だか緊張してらっしゃるようですけど・・・。」

神父尊「(もじもじしながら)は、はい。実は僕、君たちの関係がとても好きで、萌えるんです。」

真雪「関係?」

「萌える?」

神父尊「そうです。君たちが激しく愛し合うシーンの全てが、僕は大好きなんです。」

「そ、そうなんですか・・・。」

真雪「どういったところが?」

神父尊「(神妙な顔で)はい。龍くんにも真雪ちゃんにも、この話の中で誰も経験したことのなかった辛い思いをさせてしまって、本当に申し訳ありませんでした。まずはお詫びさせてください。」

「いえいえ、そんなに気になさらずに。小説っていうのは、そういう逆境があってこそ、メリハリがついて楽しめるってものですよ。」

真雪「そうそう。それに、そのお陰であたしと龍の関係は深まっていったわけですからね。」

神父尊「(感激したように)あ、ありがとう。君たちは本当にできた人だ・・・。」

「僕たちを恋人同士にしてくれたこと、心から感謝してます。ありがとうございます。」

真雪「ありがとうございます。」

神父尊「実はね、エピソード6で初めて君たちを登場させた時は、第二期の話の中でここまで主役級の活躍をさせるつもりはなかったんです。」

「そうなんだ。」

神父尊「ええ。でも、年下の男のコとお姉さん的な女のコのカップルというのは、いつかは描きたかったシチュエーションなので、それを考えると君たちが最適の年齢差だった。ハワイの夜、龍くんは真雪ちゃんを抱く夢を見て夢精したので、あとは真雪ちゃんの気持ち次第でしたからね。」

「(赤面して)恥ずかしいこと、思い出させないでくださいよ、神父尊さん。」

真雪「でも、あたしもちっちゃい頃から龍とは親しかったし、思春期を迎えてそれが恋愛感情に変わることは十分考えられることでした。あたしも今思えば年下好みだったのかもしれませんね。」

神父尊貴女が龍くんに告白したシーンは、さらりとしていながら、爽やかで、龍くんの慌てぶりも可愛くて、僕個人としてはとても好きなシーンです。」

真雪「一瞬でしたけど、あれがあたしと龍とのファーストキスだったんです。」

神父尊「幸せですね。羨ましい。」

「でも、第一期のケンジ父さんとマユミ叔母さんとのセックスでは一切描かれていなかった避妊具が、僕らのつながりのシーンからは頻繁に登場するようになりましたけど、あれには何か理由があったんですか?」

神父尊「小説をいくつか書いていると、ずっと夢物語のままでは行き詰まるんです。」

真雪「行き詰まる?」

神父尊「はい。現実にはあり得ない場面や関係やシチュエーションだと、手が限られてくる。」

「そうなんですか?逆にファンタジー系であれば、かえって自由にいろいろとできるような気がしますけどね。」

神父尊「そう思うでしょ?でも違うんです。最初の頃は、ケンジ君とマユミさんがいろんな体位や場所でセックスすることをただ単に描いて、自分自身が満足していた嫌いがあります。でも、マユミさんやミカさんが出産し、君たちが生まれたっていうことは、セックスが妊娠の手段として使われた、ってことでしょ?だったら、快楽や癒やしのセックスと、妊娠、出産のためのセックスをまぜこぜにしたら、話の傾向やポイントがブレてしまう。それに、龍くんがいつも気にしてるように、恋人の真雪ちゃんの身体を何より大切にしていることを描きたくて、初めからコンドームを登場させたんです。結果、より現実味が出てきました。」

真雪「なるほど、そういうわけだったんですね。」

神父尊「だから、避妊具なしでセックスすることの重要性が、逆に強調される結果にもなっていたんです。」

真雪「エピソード10で、あたしが板東に中出しされる、というのはそういうことを描きたかったからなんですね?」

神父尊「(悲しそうに)はい・・・。本当にごめんなさい。真雪ちゃんをあんなひどい目に遭わせただけでなく、龍くんにも酷く辛い思いをさせてしまいました。」

「大丈夫ですよ、神父尊さん。俺たち、もうすっかり乗り越えましたから。」

神父尊「真雪ちゃんが龍くんの出すものを身体の中に取り込む、というシーンは二回ありましたが、あれはそれまで描いてきたどんなセックスシーンよりも内容の濃いものでした。」

真雪「あたしが泣きながら龍に抱かれた時と、初めて口で受け止めた時、ですね?」

神父尊「そうです。罪を背負いながら龍くんに抱かれる真雪ちゃんの心の揺れ、そしてそれを赦そうとする龍くんの心の広さ、それをあの二つのシーンでは表現したかったんです。単に二人で気持ち良くなって癒されるだけではない、セックスの時の二人の心境を描いたつもりです。そういう意味で、あの君たちのセックスはとても『重い』愛し合いでした。」

「でも、そのお陰で俺たち結婚できたし、最後には双子の子どもまで授かりました。幸せをありがとうございます。」

神父尊「はい。また双子です(笑)。このシリーズは『Twin's Story』と銘打っていますから、健吾くんと真唯ちゃんが生まれたことで、スタートの『ケンジとマユミの双子の兄妹』から始まった円がちゃんと閉じるんです。」

真雪「収まりのいいエンディングですね。」

神父尊「はい。お陰様で。」

「健吾と真唯はどんな子に育つんでしょうね。」

神父尊「あ、そんなこと言うと、また彼らの成長した姿を描かなければならなくなっちゃうじゃないですか。」

真雪「描いて欲しいな。二人が成長して、思春期を迎えて、恋をする話とか。」

神父尊「うわあ、何だか責任重大だ。」

「そうそう、神父尊さん、」

神父尊「何?龍くん。」

「あなたの書く小説って、会話が長く続くことが多いですよね。」

神父尊「ああ、それは読者の一人からも指摘がありました。『会話文が多すぎて、読んでてダレる。反面、地の文は淡白で申し訳程度の情景描写しかない。』」

「どう思われましたか?」

神父尊「ある意味想定内です。僕の文章の特徴の一つなんですけど、基本的に登場人物の会話で、状況も、雰囲気も、彼らの内面も過不足なく描くことがスマートだと思っていますからね。」

真雪「説明っぽくならないような配慮、ってわけですか?」

神父尊「まあ、こればかりは読む人の好みだし、何とも言えないんだけど、そう言われれば情景描写は少ないかもしれないね。それについては、今回のこのご指摘、謙虚に受け止めて、これからに活かさなきゃ、って思います。何より、ちゃんと僕の小説を読んで下さっての言葉だしね。シロウトの僕を、一介の物書きと認めて下さった、ってことでしょうから。」

「なるほど。」

神父尊「僕が念入りに情景描写するのは、セックスの場面だけかも。」

真雪「確かに(笑)。」

「うん。念入りだ(笑)。」

真雪「でも、こういう神父尊さんの文章スタイルって、以前からのものなんですか?」

神父尊「うん。僕自身、すっごいおしゃべりで、特に飲んだりすると、のべつ何かしゃべってる。これはもう身から離れない持病みたいなもんだね。」

「そんなに?」

神父尊「だから小説の登場人物のだれもが饒舌なんだと思うよ。っていうか、寡黙な人物を登場させたりしたら、僕自身が固まってしまいそう。」

真雪「あはは。そうなんだー。」

「特にエピソード11の披露宴の場面では、修平さんと夏輝さんのトークがかなりの量を占めてましたよね。」

神父尊「あれは掛け合い漫才みたいなものだからね。しゃべってなんぼのシチュエーション。でもね、そう思ってあらためて読んでみると、ああ、僕の小説は『漫画』のノリなんだなあ、って気づきます。」

真雪「漫画ですか?」

神父尊「そう、漫画。たぶん僕の小説は、漫画やアニメにすればすんなり馴染むような書き方だと思います。」

「確かに、エピソード8なんか、特にそのままアニメ化できそうですね。」

神父尊「でしょ?だから無意識的に画になる情景を文章、特に会話にしているんだと思うんです。」

「ご自分で描かれる挿絵は、その象徴ってとこですか?」

神父尊「そうだね。その通り。だから、挿絵なしの文章だけでは、読む人がいらいらしたりダレたりしちゃうんだと思う。もっと文章だけでも勝負できるようにしなきゃね。」

真雪「(壁の時計を見上げて)あ、そろそろ帰らないと。」

「そうだね。母さんと父さんに二人の子守を頼んでるし。もう限界かも。」

神父尊「ああ、すみません。長々とお付き合いいただいて。」

真雪「いえいえ。また呼んでくださいね。」

「それじゃ。」