Twin's Story 6 "Macadamia Nuts Chocolate Time"

《14 バリアフリー》

 

「それはそうと、」マユミが言った。「ケニーのケン兄への口内射精。あれにはびっくりした。あたし」

「え?! ケンジの口に出したのか? ケネス」

「そ、そうやねん」ケネスは少し申し訳なさそうに言った。

「へえ! やるね、ケンジも」

 マユミが言った。「ケン兄、どうだったの? 実際」

「たぶん、」ケンジは言葉を選びながら言った。「ケニーじゃなきゃしなかったことだと思うけど、俺、なんか、ケニーのことが前からずっと好きだったような気がする」

「やっぱりあの夢のせい?」

「それは大きいけど、なんか、ケニーだったら抱かれてもいい、みたいな、不思議な感情っていうか……」

「まずかったやろ? ケンジ」

「いや、そうでもない」ケンジは微笑んだ。「やっぱりさ、好きなヤツのもの、って、おいしいとまではいかなくても、うれしい、って感じがするのは確かだな。少なくとも苦にはならなかったよ」

「ケン兄とケニーのキスもワイルドで濃厚だったよね」マユミが言った。「なんかサマになってた」

「わいも、ケンジとキスしてた時は、身体がどんどん熱くなってたわ」

「俺が夢で経験したキスと同じだったよ」ケンジが言った。

 

「ケンジ……」ケネスが潤んだ目でケンジを見た。「お前が親友でほんまによかったわ。またキスしたるさかいな。何なら今からでも……」ケネスがケンジの肩に手を掛けた。そしてケンジの顔に唇を突きだして迫った。

「こっ、こらっ! こ、こんなとこでやるやつがあるかっ!」ケンジは真っ赤になって叫んだ。しかしケネスは構わずケンジをその場に押し倒し、口を塞いだ。「むぐぐっ! ケニ……や、やめっ! んんん」口を塞がれたままケンジは呻いた。

 

 ミカもマユミも笑った。

 

「ミカ姉さん」マユミが口を開いた。

「なに?」

「あの時の姉さんのキス、ちょっとびっくりしちゃった」

「ごめん、いやだった?」

「ううん。とってもよかった。何だかシュークリームみたいだった」

 ケンジがケネスに覆い被さられたまま言った「シュークリーム?」

「甘くて、柔らかくて、しっとりしてて……」

「あたしもさ、マユミじゃなきゃ、あんなことしなかったよ」

「そうなの?」

 

 どすっ! ばたっ! 「こっ! こらっ! ケニー、乳首ダメだって言っただろっ! あ、ああああ……」

「ケンジ、相変わらず乳首、感度ええな。このままなだれ込もうやないか」

 テーブルの横でケネスとケンジは絡み合っている。「いいかげんにしろっ! ケニー。あ、あああ、そ、そこは……」

 

「やかましいっ!」ミカが一喝した。

「ちょっと待って、」マユミがミカの肩に手を置いた。

「ん? どうしたの? マユミ」

「ケニー、今、何て言った?」

「へ?」ケンジを押さえつけたまま、ケネスは動きを止めた。

「『相変わらず』って聞こえたけど……」

「そう言えば、そう聞こえたな……。おい、ケンジ」

「な、何かな?」ケンジは引きつった笑いを浮かべて目を泳がせ始めた。

「あんたたち、今回が初めてじゃないね? もしかして」

 

 ケネスは慌ててケンジから身体を離した。

「な、何のことや? ミカ姉、わいにはさっぱり……」

 ケネスに脱がされかけて胸が大きくはだけてしまっていた赤いアロハシャツを着直しながらケンジが言った。「ミ、ミカがマユにキスしたこと、話してたんじゃなかったっけ?」

「ごまかすな。そうだったのか……。あんたたち、もうすでに一線を越えてたのか……。知らなかった」

「あたしもわからなかったな。二人がすでにそんな関係だったなんて」マユミはそれでもニコニコしながら言った。

 

「え……っと……」ケンジは赤面してうつむいた。

 

「でも、」ミカがマユミに視線を投げて言った。「実はあたしたちも、初めてじゃなかったんだよねー」

「ええっ?!」ケンジとケネスは同時に叫んだ。

「ミカ姉さんのキス、あたし大好きなんだよ」マユミは少し顔を赤らめた。

「あたしも好きだよ、マユミの唇」ミカは男たちの方を振り向いた。「マユミの唇の感触とか肌の匂いがケンジにそっくりなんだよ。知ってた?」

「ええ? そ、そうなのか?」

「さすが双子だよね。だからマユミとキスしたり抱き合ったりしてるとね、なんかこう、自然とカラダの芯が熱くなってくるんだ」

「どっひゃーっ!」ケンジもケネスも仰け反った。

「ほ、ほたら、姉さんたち、裸になって抱き合ったりしたこと、あるんか?」

「もう、五、六回はあるよね、マユミ」

「うん」

 

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 ぶっ! ケンジが鼻を押さえた。指の隙間から血が垂れ始めた。

 

「ほれ、ケンジ」ケネスが落ち着き払ってティッシュの箱をケンジに差し出した。

「す、すまない、ケニー」

「なんや、お互い様やないか」ケネスがほっとしたように言った。

「何だかすっごく楽しいね」マユミが言った。「今度、じっくり見せてよ、ケニーとケン兄の愛し合ってるとこ」

「わいとケンジにも見せてえな。ハニーとミカ姉のラブシーン」

 

「もう、こうなったら、」ケンジが照れながら言った。「俺たち4人の身体の関係はバリアフリーになったっていうことだな」

「確かに。これで4人の秘密はことごとく消え去ったっちゅうことやな」

「すごいことやな、それぞれが3人相手に身体を求め合えるんやで? その時の趣味に合わせて」

「それもそうだね」ミカが笑った。

「一つの家族みたいね。子どもたちを含めて」

「いや、こんな家族は、いてへんやろ」

「じゃあ、家族以上だ」ケンジが言って笑った。

「もう、複雑すぎ」マユミも笑った。

 

 ケネスがハワイ土産のアソート・チョコレートに手を伸ばした。その時!

「あっ!」ケンジが唐突に大声を出した。

「どないしたん?」

「やばいっ!」ケンジは立ち上がった。

「何が?」ミカが訊いた。

「あのビデオの中に、俺たち4人の、あの晩の様子がしっかり録画されてるんだ」

「な、なんやて?!」

「いつの間に撮ってたのよ」マユミも動揺して言った。

 

 ミカがコーヒーカップを手にとってつぶやいた。「もう手遅れだな」そして続けた。「龍や真雪、トラウマにならなきゃいいけど……」

 

 その時、二階から真雪が真っ青な顔をして階段を降りてきた。

 

「ママっ!」

「ま、真雪……。あ、あなた、ビデオ見ちゃった? も、もしかして最後まで……」 

「見た。最後まで」

「見たんかいなっ!」

「おしまいだーっ!」ケンジが頭を抱えた。

 

「でも、二日目の昼で、テープが終わってる!」

 

「え?!」大人4人は固まった。

「最後にちょっとだけ、暗い部屋が写ってるけど、それきり……」

 

 ミカがカップをテーブルに戻しながら言った。「セーフ」

 

「三日目の街のバレードが見たかったのに……」真雪はがっかりしたように言って、また二階へ戻っていった。

 

2013,7,27 最終改訂脱稿

 

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《Macadamia Nuts Chocolate Time あとがき》

 最後までお読みいただき感謝します。

 『Chocolate Time』シリーズの各エピソードにつけられたタイトルは、Bitterであったり、Mintであったり、Liquorであったりと、さまざまなチョコレートの種類を元にしています。となれば、今回のこの『Macadamia Nuts Chocolate』とは、言わずと知れたハワイの名物チョコレート。

 というわけで、シンプソン家と海棠家のハワイ旅行記でした。

 ケンジもマユミも、それにケネスもすっかり大人になったということもあり、一気にみんな「大人の」関係になりました。特にケンジの妻、ミカのお陰で、この二組の夫婦は、いつでも、どんな組み合わせでも愛し合える間柄になったというわけで、3pだろうと4pだろうと自由自在です。アダルト小説の真骨頂ですね(笑)。僕はバイなので、例えばケネス(♂)×ミカ(♀)もケネス(♂)×ケンジ(♂)も普通にそのラブシーンを書くことはできますが、マユミ(♀)×ミカ(♀)の絡みは想像すると萌えますけど、経験がないので書けません。だから、このシリーズでは、いくら待ってもレスビアン物は出てきません。ごめんなさい。

 さて、今回のテーマはもう一つ。次世代へのシフトです。

 ケンジたちのジュニア、つまり健太郎、真雪、龍の三人がいよいよ思春期を迎え、そういうことに興味が出てくる。一番乗りを果たしたのは、この中では健太郎ですが、今後、シリーズ第二期で彼らはいろんなことを経験し、成長していくことでしょう。

 そういう意味で、この『Macadamia Nuts Chocolate Time』は、ケンジ、マユミ、ケネスが中心の第一期と、彼らの次世代が活躍する第二期を繋ぐエピソードという位置づけになります。思えば、スタート時点で高校二年生だったケンジたちが、もう、すっかり人の親になっているんだなあ、と思うと、感慨ひとしおでございます。

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