Chocolate Time 雨の物語集 ~雨に濡れる不器用な男たちのラブストーリー~
『雨の歌』 (1.穏やかな出会い|2.突きつけられた真実|3.気づかなかった想い|4.雨の歌|5.アクアマリンのリング)
《3.気づかなかった想い》
それからどうやって家に帰り着いたのか、良平は思い出せなかった。
気づいたときには自分の部屋のベッドに横になっていた。
身体が鉛のように重かった。明け始めた戸外の光が窓のカーテンを白く無機質に染めていた。
いつもベッドから降りる6時になっても、良平は身体を動かすことができないでいた。
彼はそのままぼんやりと灰色の天井を眺めていた。
部屋のドアがノックされ、良平の母親の声が聞こえた。「良平」
そしてそっとドアが開き、母親が顔を覗かせた。
「ああ、母さん。今日は休むよ。会社」
母親は部屋に入り、良平のベッドの脇にしゃがんだ。「大丈夫かい?」
「頭が痛くて……」
「風邪ひいたのかもしれないね。熱は?」
「熱はないみたいだ」
「朝ご飯はどうする?」
「いいよ。食べたくない」
「そうかい……」母親は立ち上がった。
「会社には電話しとく。もうしばらく寝てるよ」そして良平は、自分を見下ろし、心配そうな表情をした母親に顔を向けて力なく笑った。「ごめん、一人にしといてくれないかな……」
「そう……。何か食べたくなったら下りておいで」
「うん。ありがとう……」
ドアが閉められた。良平は目を閉じた。
昼になって、スウェット姿でダイニングに下りてきた良平に、母親が言った。「何か食べるかい?」
「りんごでもむいてよ。それだけでいい」
良平は冷蔵庫を開けて缶コーヒーを取り出し、その場でプルタブを起こして一気に飲み干した。
母親がむいてくれたりんごの一切れを食べた後、良平はケータイを開けてボタンを押した。
ペットコーナーで、仲睦まじい初老の夫婦にハムスターの飼い方の説明をし終わってスタッフルームに戻ったリサは、ケータイの小さなランプが点滅していることに気づいた。
彼女はすぐにそれを開いた。「ショートメール?」
『今日は仕事を休んで迷惑かけて申し訳ない。明日はたぶん大丈夫』
リサは胸騒ぎを覚えた。
文面の『たぶん』という言葉が妙に気になった。
「部長……天道さん……」
リサは小さく言って、そのメールに返信を送った。
『お見舞いに行ってもいいですか?』
すぐにその返信があった。
『いや、たぶん大丈夫です。心配しないで』
――また『たぶん』。
リサは、ペットコーナーの主任に、定時の夕方7時に帰してくれるように頼み込んだ。その中年の女性主任はあっさりと許可をくれた。
「いつもがんばってくれてる春日野さんだからね。いいよ。今日は早くお帰り」
微笑みながらそう言ってくれた彼女に、リサは丁寧に頭を下げた。
「ありがとうございます。新人なのにすみません」
リサは、店を出ると、街の繁華街にある、老舗スイーツ店『Simpson's Chocolate House』に立ち寄った。
店の中にいた女性が、リサの姿に気づいて、小走りで近づいた。「リサ。今日は早いね」
それはリサの高校の時の同級生で、この店のオーナー、ケネス・シンプソンの娘、真雪だった。
「あ、真雪」リサは微笑んだ。「ペットショップ、もう閉めたの?」
「今日は店休日だよ」真雪はウィンクをした。
「それで、ここ手伝ってるんだ。偉いね」
「パパに呼びつけられてねー」真雪は困ったように笑った。
「アソート・チョコレートいただける?」
「いいよ。ラッピングは?」
「うん。薄いブルーのにして」
「わかった。ちょっと待ってて」
真雪は陳列棚からこの店のスタンダードな人気商品の一つ『シンプソンのアソートチョコレート』の箱を手に取り、レジに向かった。そして数種類の包装紙の中からリサに言われた爽やかなライトブルーの包装紙で手際よくそれをラッピングした。
「プレゼント?」
「う、うん。」
「ありがとう、真雪、またゆっくり来るわね」リサは代金を払うと、少し焦ったように店を出て行った。
リサが良平の家に着いた時には、夜の8時を回っていた。
玄関先で出迎えた母親は快くリサを中に招き入れた。
「まあ、あなたは、えっと……」
「春日野です。」
「リサさん、だったわね? 修平のお友達の。いらっしゃい。どうしたの? 急に」
「あの……、部長さんのお見舞いに」
「部長? ああ、良平のことね。そう言えばリサさん、うちの良平の店に就職したんだってねえ」
「はい。とっても親切にして頂いてます」リサはぺこりと頭を下げた。
「でも、奇遇ね。修平の同級生のあなたが良平と同じ職場だなんて」
「そうですね」リサは通されたリビングで母親に訊いた。「良平さんは、お部屋ですか?」
「ええ。部屋で寝てるはずよ。頭が痛いって、今朝からね」
「そうですか……」リサは小さくため息をついた。「あの、お部屋に伺ってもいいですか?」
「ありがとうねえ。わざわざ来ていただいて……」母親は恐縮したように言って、リサを連れて階段を上った。
良平の部屋のドアを母親がノックし、中の良平に声を掛けた。「良平、リサさんがお見舞いに来てくだすったわよ」
そしてドアを開けて、リサを促した。「どうぞ」
「ありがとうございます」
母親はそのまま階段を降りた。
「部長さん……」
良平の部屋に足を踏み入れたリサの鼻を、つんとした匂いが刺激した。「え?」
スウェット姿のまま、ベッドに背を丸めて座った良平は、定まらない視線を入ってきたリサに向けた。
「ああ、」良平は少しだけ微笑んで、それだけ言うとまた目を伏せた。
ベッド脇のテーブルには白い焼酎の瓶と、半分程の中身が残ったグラスが置かれていた。
「ぶ、部長!」リサは慌ててドアを閉め、テーブルの横に座って良平の顔を覗き込んだ。「部長、ど、どうしたんですか? 何か、あったんですか?」
「春日野さん……」赤い顔をして良平はそうつぶやき、テーブルのグラスに手を伸ばした。
グラスの横に並んで立っていた瓶の底には、まだ少し中身が残っていた。
「僕はバカです。愚か者です。いや、ピエロかもしれない……」ろれつの回らない言葉で良平は唸るように言った。
「大丈夫ですか? 部長さん。気分悪くないですか?」
「気分ですか?」良平は虚ろな目でリサを見た。「最悪ですよ……昨夜から」
「お水、持って来ましょうか?」
「え? 水? そうですね……水で薄めた方がいいですよね、やっぱり……」
良平は目を閉じて力なく何度も小さくうなずいた。
リサが階下のダイニングから水の入ったピッチャーと新しいグラスを運んできたとき、良平はピンクのリボンが掛けられた小箱を握りしめていた。
良平はいきなり手を振り上げ、思い切りその箱を部屋の壁に投げつけた。
バン! という大きな音がして、それは床に無慈悲に転がった。
「部長!」
「水、ください、リサさん……」
リサは慌てて、運んできた水をグラスに注ぐと、良平が持っていた焼酎のグラスの代わりに握らせた。
良平はそれを黙って口に運び、口元からだらだらとこぼしながら一気に飲み干した。リサはベッドの枕元にあったティッシュで良平の口元やこぼれた先の太股を拭った。
「リサさん」良平はリサの目を見た。
「はい」
「……お願いがあります」
「何でしょう」リサは緊張したように動作を止めた。
「僕に笑いかけてくれませんか?」
一瞬戸惑った後、リサはぎこちなく少し震える声で言った。「も、もちろん。いいですとも」
リサは良平の目を見つめて微笑んだ。少し無理をした笑顔だということは、リサ自身も気づいていたが、今、目の前にいる男性に対して、精一杯の笑顔を作りたかった。
「ありがとう……ありがとう。ほんとに癒されます。あなたを見てると……」
「良かった……」
リサはカーペットに座り直した。
良平はのろのろとベッドから降りて、テーブル越しにリサと向かい合った。
「少しは気分、良くなりましたか? 部長」
「はい。貴女の持って来てくれた水とその笑顔のお陰で……」
「あ、そうそう」リサは自分のバッグから、ここに来るときに買ったチョコレートの箱を取り出した。「これ、食べて下さい」
「それは?」
「チョコレートです。お好きですか?」
「ああ、チョコレート。うん。好きです。なんだかバレンタインデーみたいだ」良平は照れたように頬を赤らめ、頭を掻いて笑った。
子どものように無邪気な笑顔だとリサは思った。
リサは静かに話しはじめた。「私、辛いことがあると、このチョコレートを食べるんです」
「へえ、そうなんだ」
「そうすると、不思議と心が落ち着くんです」
「不思議と……」
「だから、こないだ失恋したときもこれを自分で買って、その日のうちに全部一人で食べました」リサは笑った。
「全部、一人で?」
「はい」リサは微笑みを絶やさず続けた。「効果抜群です。ずいぶん気が楽になりました。その時も」
「そうなんだね。試してみようかな、僕も」
良平はそう言いながら、受け取ったチョコレートアソートの包みを丁寧に広げた。そして箱を開けて、一粒の艶やかなチョコレートを口に入れた。
もぐもぐと口を動かしていた良平は、目を上げてリサを見た。そして微笑んだ。「ほんとだ」
「ね、効果有りでしょ? でも、それと同じ作用をすることがもう一つあるんです」
「同じ作用?」
「はい。私にとって」
「なんですか? それ」
「部長さんの笑顔です」
良平はびっくりしたように目を見開いた。
「失恋の痛手を癒してくれた、一番の薬は、部長さんの『元気出して』の言葉と笑顔」
「僕も……」良平はうつむいて小さな声で言った。「貴女の笑顔にはいつも癒されていた。今も……」
良平は静かに、抑揚を抑えた口調で呟き始めた。
「僕はね、恋人の沙恵が大好きだった。二年間つき合ってきて、この夏に結婚を決意した」
リサは部屋の隅に転がっていたジュエリーボックスの小箱を拾い上げた。リボンはほどけかけ、箱は無惨にひしゃげていた。
「沙恵も同じように僕を愛してくれていると思ってた。思い込んでた……」
リサは黙ってうなずいた。
「でも、彼女の心はもう違う男のモノになっていたんです」目元に滲んだ涙を恥ずかしげに左手の指で拭った良平は、残っていた焼酎の入ったグラスに手を掛けた。
「ずっと気づかなかった。僕はバカです……」
「昨夜、何があったんですか?」
「昨夜、ですか?」良平は顔を上げた。
「あ、いえ、話したくなければ、無理にとは……」
良平はふっと寂しげに笑った。「聞いて下さい、リサさん」
「昨日は沙恵の誕生日でした。僕は彼女にプロポーズしようと、その指輪を買って、渡すつもりでした。でも、昨夜は会議が予定されてたので、明後日の土曜日に行く、と沙恵には伝えてました」
リサは昨日の退勤時の、心から嬉しそうな良平の笑顔を思い出し、胸を痛めた。
「でも、会議が延期になったので、僕は彼女を驚かせようと、何も連絡せずに部屋を訪ねたんです。そしたら、圭輔と沙恵がハダカで絡み合ってました。合い鍵でこっそり侵入して、ドアの隙間から見てしまいました」
「え? 圭輔って、最近店を辞めたあの圭輔さん?」
「そうです。今思えば思い当たることがいっぱいあります。彼女の部屋にあった空き缶。たぶん吸い殻代わり。彼が店を辞めたのも、沙恵と同じコンビニで働くために違いありません。そして、これも沙恵のマンションの玄関に置いてあった空の焼酎瓶」
リサはテーブルに置かれた白い瓶に目をやった。
「沙恵が焼酎なんか飲むはずがない。その時、おかしいと思うべきでした」
「沙恵さんとは、また会ってお話されるおつもりですか?」リサは恐る恐る訊いた。
「もう話しました。電話で」
「え?」
「今朝……」
――全裸のまま圭輔とベッドの上で抱き合っていた沙恵の枕元に置いてあったケータイが鳴った。
沙恵は眠い目をこじ開けてそれを手に取り、開いた。その瞬間飛び起きて身体を起こし、彼女は覚悟を決めたように通話ボタンを押した。
「誰からだよ、沙恵」圭輔は不機嫌そうに顔をしかめて寝返りを打った。
「しっ!」沙恵は慌てて圭輔の言葉を遮ると、ケータイに向かって話しかけた。「ど、どうしたの? 良平」
「『良平』っ?!」圭輔も慌てて上半身を起こし、沙恵から身体を離した。
『気づかなくてごめんな、沙恵。別れよう』
「え? いきなり、ど、どうして?」
『想いが冷めた。それだけだ』
「りょ、良平……」
『ひとつ、聞かせてくれ』
「……」
『今、君の横にいる圭輔君と俺、どっちが遊びで、どっちが本気だったんだ?』
「え? あ、あの、りょ、良平」沙恵はひどく狼狽し、身体を硬直させた。
『ま、どうでもいいか。そんなこと。もう終わったことだしな』
「ご、ごめんなさい、りょ――」『俺は本気で君が好きだった。昨日も指輪を持って部屋を訪ねた。プロポーズするつもりだった。君は気づかなかったみたいだけど』
「あ、あたし……」沙恵の瞳に涙が滲んだ。
『稼ぎはまだ少ないけど、君といっしょに生きていけることを夢みてた』
「……」
『ごめんな、君の気持ちも確かめずに自分勝手にそんなこと考えちゃって』
沙恵の頬を涙が伝って、ぽとりとシーツに落ちた。
『心配するな。君たちの邪魔をする気も、仕返しする気もないから。俺がそんなことができない小心者だってこと、君も知ってるだろ』
沙恵は激しく嗚咽し始めた。
『合い鍵は近いうちに郵便受けに入れておくよ。もう俺とは顔を合わせたくないだろ』
「良平、あたし、あたし……」もう止めどなく沙恵の目から涙が溢れていた。
『最後に一言だけ、言っていいかな』少しの間があって、良平は小さな声で言った。『誕生日、おめでとう』
ぷつっ……。通話が切られた。
「お、おい! 沙恵、ば、ばれたのか? もしかして?」
ひどく焦りながら下着を穿き、圭輔はベッドの横に立ちすくみ、青い顔をしてうろたえた。
沙恵はベッドに突っ伏して号泣した。
良平はグラスに入った生の焼酎を、まるで薬を飲むような顔で一気に飲み干した。
「部長さん……」
良平は置かれていた瓶を手に取り、底に残っていた焼酎をグラスに注いだ。その白い瓶は空っぽになった。彼はゆっくりと口元を手で拭って、悲しそうに笑顔をリサに向けた。「これで、あいつとの歴史は終わり。この酒を飲み上げたら、忘れる、って自分に言い聞かせてたんです」
そう簡単にいくはずはない、とリサにも解っていた。彼の中に渦巻いている未練は彼の心を締め付けるだろう。自分がかつてそうだったように。しかし、さらに良平の心は、どこにもぶつけようのない嫉妬や怒り、悲しみといったものに容赦なく痛めつけられている。
リサは良平には恩返しをしたかった。落ち込んでいた自分を元気づけてくれたこの男性に、今度は自分が恩返しをする番だ。
リサはそう強く思った。
「部長さん……」
「なに?」
「私、貴男に何ができるんでしょう……」
「え?」
「貴男を元気づけたいです。貴男が私にしてくれたみたいに」
良平はふっと笑った。「もう十分ですよ、リサさん。貴女がここに来てくれた時、僕はすっかり吹っ切れた」
「そ、そうなんですか?」
「うん。思えば沙恵への想いは、もう随分前から冷め始めていたのかもしれません」
「で、でも、プロポーズ……」
「なんかね、焦ってた。二年も交際して、自分ももうすぐ30になろうとしている。とにかく結婚するなら今だ、って訳もなく自分を追い込んでいたのかな。だから昨夜、あんな光景を見ても、今朝になったら怒りも収まってたし、悔しさもあまり残ってなかった」
「でも、圭輔さんには許せない、っていう気持ちになるんじゃありません?」
良平は肩をすくめた。「逆にほっとした、っていうか……。あのまま僕が沙恵に指輪を渡してプロポーズしてたら、もっと泥沼化していた。そう思いませんか? だって、もう結構前から沙恵は圭輔とデキてたわけだし。ただ、」
「ただ?」
「僕が彼女と愛し合う時は、毎回必ず避妊してたのに、あ、ごめんなさい、生々しい話で」
「構いませんよ」リサは優しく言った。
「昨夜の圭輔は、何もナシに沙恵と繋がってた。それはなんか、すっごくイヤだった。」
「わかります……」
「きっと僕とのセックスでは満たされなかったんでしょう。沙恵は。二人がやってることも激しくて、僕なんかには到底真似できない愛し合いでしたから」
「そ、そうだったんですね」
「そう思ったら、やっぱり身を引くしかないでしょう? 今」
しばらくの沈黙があった。
「諦めがついた。それと同時に、」
良平の言葉が途切れたので、リサは思わず顔を上げた。
「今まで気づかなかったことに、ついさっき気づいた……」
「気づかなかった……こと?」
「僕は、貴女に惹かれている……」
「部長さん……」
「昨日まで別の女性とつき合っていた僕が、今日、貴女にこんなことを言う資格はないのかも知れません。でも、」
リサは良平のまっすぐな視線を受け止めながら、胸が熱くなっていくのを感じていた。
「貴女さえ良ければ、僕のことを『部長』ではなく『良平』と呼んでほしい……」
良平はすぐにうつむいた。
「……」
出し抜けに良平が顔を赤くして焦りながら言った。「ご、ごめんなさい! 突然変なこと、言い出しちゃって。何て都合のいいこと、言ってるんだか」
テーブルに置いてあったピッチャーから、もう一つのグラスに乱暴に水を注いで、良平は一気にそれを飲み干した。
「良平さん……」リサが小さな声で言った。「私も……気づいた……」
「え?」
「ご恩返しなんかじゃなかった……」リサは良平の手を取った。「私が貴男を元気づけようとしていた気持ち、それは恩返しじゃなくて、恋心だったんだって……」
「リ、リサさん……」良平は泣きそうな顔でリサの視線を受け止めた。「ぼ、僕なんかでいいんですか? し、しかも、よ、酔ってるし」
「私も酔ってる。あなたに……」リサは悪戯っぽく笑った。「状況は同じです」
いきなり良平はリサの背中に腕を回し、抱き寄せたかと思うと、その口を自らの唇で覆った。
んんっ……
リサはうっとりしたように呻いた。
口を離した良平は赤くなってばつが悪そうに頭を掻いた。「理性は戻ってます。いやならいやと……」
「この段階でいや、なんて言えっこありません」リサも頬を赤く染め、良平の首に腕を回した。
「そ、それに、僕の息、酒臭いでしょ?」良平は今更のようにそう言って、ひどく申し訳なさそうな顔をした。
「じゃあ、」リサは良平の前に置かれていたグラスを手に取り、中に入っていたものをごくごくと飲み干した。
「リサさん!」
リサは口元を拭って、恥じらったようににっこりと微笑んだ。「これで私もあなたと同じ」
良平は再びリサと唇を重ね合わせた。どちらからともなく、二人は舌を激しく絡み合わせた。何度も交差させ直しながら、激しくお互いの想いを確かめ合った。
雨の歌 1.穏やかな出会い|2.突きつけられた真実|3.気づかなかった想い|4.雨の歌|5.アクアマリンのリング
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