Twin's Story 外伝 "Hot Chocolate Time" 第2集 第10話 幻影タイム

〈3.鎮守の森〉

 

 あたりはすっかり暗くなっていた。涼しげな風が吹いている。

 健太郎たちのテントの前に設置した大きめのスクリーンハウスの中で、四人はコーヒーを飲んでいた。

 

「気持ちいいね」春菜が伸びをした。

「しかし、夏輝、手際いいよな」健太郎が感心したように言った。「たったあんだけの道具で、しかもにわか作りの竈(かまど)でさっきみたいな豪華な夕食が作れるなんてさ」

「警察学校での実習でたたき込まれたんだ。野営調理のノウハウ。それに、『うぇるかむ・べじたぶる』もあったし、みんなも手伝ってくれたからね」

「天道くんも大学ではいっぱい経験あるんでしょ?」

「やったな。確かに。野外活動はしつこいぐらいやらされた。4単位扱いだったからな。だけど、俺ちゃんと『優』で単位取ったぞ」

「最強のカップルだな。キャンプに関して」健太郎が笑いながらコーヒーをすすった。「なんか、このコーヒーもうまいな」

「たぶん水のおかげだよ」夏輝が言った。「蛇口から出る水、そのまま飲んでもミネラルウォーターみたいにおいしいもん」

「だな」修平も言った。「これ、上水道の水じゃねえな、明らかに」

 

 少しの沈黙のあと、春菜が言った。「静かでちょっと寂しいね。あたしたち以外に誰もいないから……」

 

 森の中から虫の音も聞こえる。

 

「森に守られて豊かな気持ちになるじゃない」夏輝も言った。

「星もきれいだしな」修平がハウスから出て空を仰いだ。「お、射手座が目の前に見えっぞ、ケンタ」

「どれどれ」健太郎も立ち上がり修平の横に立った。「ほんとだ」

「いいなあ、ケンタの星座は派手で」修平が言った。「俺の天秤座なんざ、暗くてほとんど見えねえよ」

 

 春菜と夏輝もやってきて並んだ。

 

「良く晴れてる」夏輝が言った。

「きれいねー」春菜も顔を上げて空を見上げた。「天の川も見える」

 

 健太郎の手が春菜の肩に乗った。春菜は顔を赤らめた。

 

 その様子をちらりと見た夏輝が、目線を射手座に戻して言った。「お風呂、行ってきたら?二人で」

「えっ?」春菜が夏輝を見た。

「行こうか、ルナ」健太郎が春菜の手を取ってにっこり笑った。

「ランタン、もう一個そこにあっから」修平がテントの脇を指さした。

「ああ。借りるよ」健太郎は言って身支度をし始めた。

 

 

 その露天風呂までの獣道を辿る間、春菜はずっと健太郎の腕にしがみついていた。

「どうしたの? 怖い?」

「う、うん……ちょっと」

「大丈夫だよ」健太郎は努めて明るく言った。

「は、離れないでね、ケン」

「わかってるって」

 

 ごろごろした岩で囲まれた、小さな露天風呂だった。傍らに床のない屋根と囲いだけの小さな小屋があった。

「これって天然温泉なのかな……」健太郎が湯気の立ち上っているその湯だまりに手を浸した。

「どう? ケン」

「ぬるめだけど柔らかいお湯だよ」

「そう」

 春菜は恥ずかしげに胸を押さえていた。

 しゃがんだまま健太郎は春菜を見上げた。「入ろうか」

「うん……」

「恥ずかしがることないよ。二人きりだし。それに俺がいるから大丈夫。安心して」

「うん。そ、そうだね……」

 

 健太郎は小屋の中に電灯のスイッチを発見した。風呂の脇に立っている傘付きの電灯が、オレンジ色の淡い光で、白い湯気の立ちこめたその辺りの空間を浮かび上がらせた。

「先に入ってて、ケン」

「わかった」

 

 健太郎は服を脱いで、タオルだけを持ち、一度掛かり湯をして、身を湯に浸した。

 小屋の中でかすかに衣擦れの音とともに春菜の声がした。「ケン、いるー?」

「いるよ。心配しないで」

 

 すぐに春菜がタオルで身体の前を隠しながら小走りで小屋を出てやって来た。そして焦ったように掛かり湯をして脚から温泉に入り、湯の中をじゃぶじゃぶと健太郎に近づいた。

「怖がらなくても大丈夫だって」健太郎は春菜の腋に腕を回した。

 

 二人は湯の中で、寄り添って空を見上げた。

「ほんとに静かな夜……」春菜が小さな声で言った。

「都会の喧噪を忘れるね」


 湯に浸かっているうちに、健太郎の身体はむやみに熱く疼き始めた。

 

 健太郎は思わず春菜の肩に手を置き、もう片方の手で頬を撫でた。そして焦ったように唇同士を重ね合わせた。

「んっ……」

 眼鏡の奥で春菜は目を閉じた。

 二人はそのまま唇を重ね直しながら、長く情熱的なキスをした。

 

 健太郎の手が春菜の乳房を包み込んで柔らかくさすった。

 春菜は健太郎の唇で口を塞がれたままうっとりしたように呻き声を上げた。

 

 健太郎の手が春菜の身体を滑り降り、湯の中で揺らめいている愛らしい茂みをかき分け、秘部に到達した。

「んあっ!」春菜は思わず健太郎から口を離して小さく叫んだ。

 健太郎はそのまま指を彼女の谷間に挿入させた。

「あ、ケン……」

 春菜の息が荒くなっていった。

 

 突然健太郎は両腕で春菜を抱きかかえ、湯の中で立たせた。そしてもう一度彼女の口をその唇で捉え、激しく吸い始めた。春菜も健太郎と舌を絡め合い、彼の背中を強く抱きしめながら腰を健太郎の身体に押しつけた。

 

 健太郎は春菜の左脚を持ち上げた。そして少し腰を落として、いきり立って脈動している自分のものを彼女の秘部に押し当てた。

 

「ルナ、いい?」

 春菜は焦ったように言った。「来て、来て、ケン。抱いて。ぎゅって」

 

 健太郎と春菜はそのまま一つになった。

 二人は再び熱いキスをしながら激しく揺れ動いた。

 

「ケン! イっちゃうっ! あああっ!」口を離した春菜が、ひときわ大きな声で叫んだ時、湯の中で彼女の肌は赤く上気していた。

「ぐうっ!」健太郎も眉を寄せてのど元で呻き声を上げた。

 

 びゅくびゅくっ!

 健太郎の内から湧き上がった熱い想いが、春菜の身体の奥深くに、何度も勢いよくほとばしり出た。

 

 二人は細かく震えながら、長い間固く抱き合っていた。


 

 健太郎は春菜の肩を抱いて、風呂からテントへの道を歩いていた。

「ああさっぱりした。気持ち良かったね」

「う、うん。そうだね」春菜はやっぱり健太郎の腕にしがみついていた。

 

 二人が狐の祠のある場所に差し掛かった時、夏輝の甘い喘ぎ声がテントの方から聞こえてきた。

「あれえ?」健太郎は足を止めて耳を澄ませた。

 

 春菜も足を止めた。

 

 健太郎は春菜の耳に口を寄せて囁いた。「修平たちも……」

「そうみたいだね」春菜は笑った。

「まったく、修平のやつ、また野性に戻ってるよ」

 健太郎は呆れたように春菜の顔を見た。

 

 健太郎と春菜は、修平と夏輝の熱く甘い時間が終わるまで、そこで待つことにした。

 二人は柔らかな芝生の上に腰を下ろした。

 

「ルナ、俺さ、ずっと考えてたんだけど」

「どうしたの?」春菜は健太郎の顔を見た。

「お昼に寄ったあのうどん屋さんの屋号の意味」

「『鎮守が森艶姿雌狐親子食堂』だったわね、確か」

「そう」健太郎は振り返って狐の祠に目をやった。「『鎮守が森』っていうのはたぶんこの森、『雌狐』はこの祠もそうだけど、上の方にあるっていう稲荷神社のご神体のことなんだろうけど」

「うん。しかも白い二匹の狐だよね」

「そうだね。でも『艶姿(あですがた)』っていうのがどうも違和感があって……」

 

 春菜は少し考えてから健太郎の顔を見ながら言った。「狐の体つきって、しなやかで芸術的だし、ちょっと色っぽいじゃない。女体を思わせる感じもするし」

「なるほど。さすがルナ」健太郎は春菜の肩を抱き寄せた。

「お店の屋号にする時、インパクトを付け加えた、ってとこじゃない?」

「そうかもね」

「でも、やっぱり少し不気味。特に夜になると……」春菜は一度狐の祠を振り返った後、すぐに不安そうな表情で健太郎を見た。

 

『夏輝夏輝夏輝夏輝っ! イ、イくっ、出る、出るぞっ! 夏輝っ!』

『あたしも、イっちゃうっ! 修平ーっ!』

 

 遠くからひときわ大きな夏輝と修平の叫び声が聞こえ、それきり静かになった。

 

「フィニッシュ」健太郎は春菜を見て笑った後、彼女の手を取って一緒に立ち上がった。

 

 その時、背後の祠あたりの草むらでがさがさっという音が聞こえ、春菜は反射的に健太郎にしがみついた。

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