Twin's Story 外伝 "Hot Chocolate Time" 第2集 第10話 幻影タイム

〈4.母と娘〉

 

 露天風呂から戻ってきた修平と夏輝は、同時に同じように目を擦りながらあくびをした。

「眠そうじゃないか、二人とも」健太郎がおかしそうに言った。

「風呂に入ったら、どっと疲れが出ちまって……」

「風呂で何か疲れること、やってたのか?」

 

 夏輝の顔が赤らんだ。

 

「そう言うおまえらもだったんだろ? ケンタ」修平はにやりと笑った。

「そ……」健太郎と春菜も赤面した。

「修平、いつになく激しくってさー……」夏輝が口に手をかざしてまたあくびをした。

 

「じゃ、俺たち寝るわ」修平は春菜と健太郎にそう言って、夏輝と一緒に自分たちのテントに入っていった。

 

「私もなんだか眠くなってきちゃった……」春菜も目を擦った。

「休もうか」健太郎は春菜を促し、自分もテントに入って、開けていた入り口のシートを下ろし、ジッパーを閉めた。

 

 

 健太郎は夜中にふと目を覚ました。横で春菜が静かに寝息を立てている。

「何だか喉がかわいたな……」

 

 健太郎は春菜を起こさないようにしながらそっとテントを出た。

 

 流し場に足を向けた健太郎は、そこに一人の女性が立っているのに気づいた。

「え?」健太郎の背筋に冷たいものが走った。

 

 その女性は、健太郎の姿を認めると、困ったような顔をして小さな声で言った。「あ、あの……」

「ど、どうかしましたか?」健太郎はその女性に恐る恐る近づいた。

 

「すみません。見ず知らずの方に声をおかけしたりして……」

 

 うつむきがちにそう話す彼女は、特段変わった姿でもなく、普通の人間の女性だった。年の頃は40前後ぐらいだろうか。物腰も柔らかそうで、礼儀正しい言葉遣いだった。ただ、古風だが誰が見ても疑いなく美人で、その肌は透き通るように白く、左目の下にある泣きぼくろをことさら目立たせていた。

 

「私は娘と二人でキャンプをしに来たのですが、ロープを止めていたペグがどうしても抜けてしまって、テントが傾いてしまうんです」

「そ、そうですか」

「女の力ではどうしようもなくて……」

 

 健太郎は、このキャンプ場に来ているのは自分たちだけだと思っていたので、素直にその疑問をぶつけた。

「いつからここに?」

 その女性はすぐに答えた。「先ほどです。ふもとであれこれやっているうちに暗くなってしまって……」

「そうですか」

「先客のあなた方がいらして、実はとっても心強く思ってますのよ。やっぱり女だけだと不安が多くて……」

 

 健太郎は思った。そもそも母と娘だけでのキャンプ、というのが不自然極まりない。見たところ、それほどアウトドア愛好家とも思えない上に、細身な風貌と華奢なその身のこなしが、このキャンプ場自体にそぐわない感じがした。

 

「テントはどちらに?」

「こちらです」女性は流し上に置いていた古めかしいランプを手に取り、そこを離れた。健太郎は彼女の後をついて行った。

 

 

 そこは例の狐の祠のある空き地だった。

 

 その真ん中に張られたテントは、確かに斜めに傾いている。入り口の左に差してあったと思しき一本のペグが外れたままになっていて、そのそばにまだ中学生ぐらいのショートパンツ姿の女の子が途方に暮れて座り込んでいる。

 

 その少女は、健太郎を先導していた母親の姿を認めると小さく叫んで立ち上がった。「あ、お母さま」

 

「(『お母さま』?)」健太郎は眉をひそめた。

 

「助かったわ。この方がお手伝いして下さるって」母親が言った。

 

 健太郎はペグを手に取り、芝生の地面に差してみた。場所によっては確かに柔らかく、ロープを張れば抜けてしまうことは容易に想像できた。それでも彼は何とか固定できそうな所にいくらか鋭い角度をつけてペグをハンマーで打ち込んだ。そして外れていたロープを結びつけると、手で引っ張って弛まないことを確認した。

 

「たぶん、これで大丈夫だと思います」健太郎は腰を伸ばした。

 

「ありがとうございました」母親の方が丁寧に頭を下げた。

「お茶でも飲んで行かれませんか? お礼に」娘がにこにこ笑いながら健太郎を誘った。その娘の左目の下にも母親と同じように小さなほくろがあった。

「どうぞ」母親が健太郎の手を取った。

 

 その手は温かで、柔らかだった。その心地よい感触は健太郎の身体の中に染み渡り、それと同時に彼は猛烈な眠気に襲われた。

 

 

 健太郎がうっすらと意識を取り戻した時、目の前にさっきの若い娘の白い顔が迫っていた。健太郎は息を呑んだ。

 娘は何も言わず、そっと健太郎の唇に自分の唇を押し当てた。

 

 娘が口を離した時、ようやく健太郎は自分がテントの中にいて、しかも何も身につけていないことに気づいた。

「えっ?」

 健太郎の頭は混乱し、今の状況がとっさに把握できずにいた。

 

 ここがあの女性に連れてこられたテントの中だ、ということは理解できたが、自分が全裸で、しかも目の前にいる娘も、そのそばにいる母親もその白い肌を全て惜しげもなく曝していることにひどく狼狽していた。

 

「あ、あなたがたは、いったい!」

 健太郎はようやくそれだけ言って、身体を起こした。

 

「楽しんでいってくださいな」

 

 母親の方がそう言って微笑んだ。

 健太郎は焦ってそのテントを出ようとした。しかし、不思議なことにそれは叶わなかった。まるでその狭い空間を見えないバリアが取り囲んでいるかのように、健太郎の身体はテントの薄い布に弾き返された。

 

「ぼ、僕をどうしようって言うんです?」

 健太郎は半ば観念したようにその親子に向き直った。

「ご安心下さい。これはささやかなお礼です」母親が言った。

「お礼?」

 

「それに、あなたに、もう一つお手伝いしていただきたいことがあるんです」娘が愛らしい顔で微笑んだ。

 

 健太郎はこの異常な状況下でも、その二人の美しい姿の女性が、自分に危害を加えるつもりがないことを、何となくではあるが感じ始めた。

 

「お手伝い……って?」

 

 二人はその健太郎の問いには答えなかった。

 その代わり、母親は健太郎の身体をそっと抱き、足を伸ばして座らせた。

「え? あ、あの……」

 

 健太郎の意識ははっきりしていたが、なぜか身体がまるで鉛を背負っているかのように重く、思うように動かせなくなっていた。

 

 彼は娘が自分の太股に跨り、その秘部を自分の固くなったものに擦りつけ始めるのを拒絶できなかった。

「あ、あの!」

 

「大丈夫。あなたの心のおもむくままに……」母親がそう言って、健太郎の背後から彼の逞しい胸にその白く細い腕を回した。二つの柔らかく温かいものが彼の背中に押し当てられ、図らずも健太郎の身体は熱を帯び始めた。

「や、やめてください! ぼ、僕にはルナが!」

 

「何言ってるの? ケン」

 

「えっ?!」

 

 自分の身体に跨り、首に手を回しているのは春菜だった。だが、左目の下に小さなほくろがある。

 

「私、ここにいるじゃない」春菜は言い、そしてにっこり笑った。「ケン、さっきみたいに激しくイかせて」

「ル、ルナ!」

「ケンちゃん、あたしも手伝ってあげる」背後の女性の声は夏輝のそれだった。

「えっ? な、夏輝?」健太郎は振り向いた。すると健太郎を背中から抱いていた夏輝が彼の唇に自分のそれを重ね、激しく吸い始めた。

「んんん……、んっ」健太郎はうろたえて呻き声を上げた。

 

 健太郎と夏輝が肩越しに熱烈な口づけを交わしている間に、春菜はいきりたって脈打ち始めた健太郎のペニスに手を掛け、自分の谷間に導いた。そしてゆっくりと中に挿入させ始めた。

「んんんっ!」

 健太郎は夏輝に口を塞がれたまま苦しそうに呻いた。

 

 春菜の腰が上下に激しく動き始めた。

 健太郎の興奮は否応なしに高まっていく。

 背後から伸ばされた夏輝の指が健太郎の両の乳首を捉え、つまんで刺激し始めた。

 健太郎の身体中に熱い風が吹き荒れ始めた。

 

「ケン! イって! お願い、いっぱい出して!」

 春菜が叫んだ。

 

 健太郎の身体が大きく震え始めた。

 おもむろに夏輝の口が離れた。

 

「ル、ルナ! 夏輝っ!」健太郎は絶頂を予感して叫んだ。

 

「ケンちゃん、イって! 春菜の中にいつものようにたくさん出してあげて!」

 

「イ、イく……、」健太郎の身体の震えがひときわ大きくなった。

 

「イって! ケン!」

 

「で、出る、出るっ! ルナ、あああああ!」

 

「ケン!」

「ケンちゃん!」

 

「イくっ! ルナ、ルナーっ!」健太郎は仰け反りながら大声で叫んだ。

 

 びゅくびゅくっ! びゅるるるっ!

 

 激しく健太郎の中から沸き上がったその白い精が、勢いよく彼のペニスの先から娘の身体の中に噴き出した。

 

「ああああああーっ!」

 

 

「ケン?」

 春菜はテントの中で目を覚ました。

 隣で横になっているはずの健太郎がそこにいないことに気づいて、彼女は身体を起こした。

「ケン?」もう一度春菜はその恋人の名を呼んだ。急に不安に駆られ、彼女はテントを出た。

 

「ケン!」春菜はあたりを見回しながらまた健太郎の名を呼んだ。春菜の胸の中にある重苦しい固まりがどんどん熱くなり、それは喉元に上がってきてどくんどくんと脈打ち始めた。

 春菜は堪らなくなって隣のテントを揺さぶった。「夏輝! 天道くん! 天道くんっ!」

 

 テントから夏輝と修平が眠そうな顔を出した。「どうしたの? 春菜」

「ケ、ケンがいないの! いなくなったの!」

 二人はテントから這い出してきた。

「トイレじゃねえの?」

 修平はそう言って、サンダルをひっかけ、ぼりぼりとショートパンツ越しに尻を掻きながらトイレを見た。しかし、そのトイレの電灯は消えたままだった。

「ケンタ!」修平は健太郎の名を呼んでみた。

 

 虫の音だけが三人の耳に入ってきた。

 

「どこ行っちまったんだ? ケンタのヤツ……」修平も不安そうな顔を夏輝に向けた。

「いつからいなくなったの?」夏輝は春菜に身体を向けた。

「わからない……」春菜は涙ぐんでいた。「気づいたらいなくなってた……」

「ケンタのことだから、大丈夫だとは……思うけど……」修平は春菜を元気づけようとしたが、功を奏さなかった。春菜の目から涙が溢れ始めた。

「ケン、ケン……」春菜はその場に力なく座り込んだ。

 

 その時、

 

「イくっ! ルナ、ルナーっ!」

 

 森の中から健太郎の叫び声が聞こえた。

 春菜は弾かれたように立ち上がると、声のした方に駆けだした。修平と夏輝もランタンに火を灯して、春菜の後を追った。

 

 

 三人がたどり着いたのは、狐の祠がある空き地だった。不思議なことに、その場所だけぼんやりと白い霧のような光に包まれている。

 

「ケン!」春菜が叫んだ。

 

 健太郎は一糸まとわぬ姿で芝生の空き地の真ん中に四つんばいになり、ぜえぜえと激しく胸を上下させて喘いでいた。

 

 春菜は健太郎に駆け寄った。

「ケン! ケン!」春菜は狂ったように叫びながら健太郎の身体を抱き起こし、肩を揺さぶった。

 

「はっ!」健太郎は目を見開き、顔を上げた。「ル、ルナ……」

 彼は春菜の泣きはらした顔を見て、一気に赤面した。

 

「こ、こんなとこで何やってやがる!」修平が強い口調でそう言うと、健太郎は慌てて股間を押さえ、焦ったように立ち上がった。春菜は健太郎の汗ばんだ身体をぎゅっと抱きしめた。

 

「い、いったい俺は……」健太郎が放心したように言った。

 

「何やってたの? ケンちゃん、一人で……」夏輝が祠の前に脱ぎ捨てられていた健太郎のTシャツとジーンズ、それに下着を手に取り春菜に渡した。

 健太郎は春菜から下着を受け取り、焦ってそれを身につけた。

 

 修平がにやにやしながら言った。「おまえ、こんなとこで一人エッチやってたのかよ」

「い、いや……」

 

 修平がランタンで照らした芝生の上に、たった今放出されたらしい健太郎の白い液が大量に振りまかれていた。

 

「春菜を抱いてやればいいじゃねえか。なんで一人でやんだよ。」

「ち、違うんだ」

「春菜、泣いてたぞ」

 

 健太郎はシャツとジーンズを身につけ終わると、静かに言った。「テントに戻ろう。ここで俺がたった今体験したことを話してやるから」

 

 

「はあ?! なんじゃそりゃ?」最初に大声を上げたのは修平だった。「その母子にたぶらかされて、いつの間にか春菜と夏輝相手にエッチしてたってのか?」

「そ、そうだ」

「わけわかんねー」修平はコーヒーの入った紙コップを持ち上げた。

「だけど、明らかにその母親と娘が化けてた。ルナと夏輝に」

「ずっと夢みてたってことじゃない?」夏輝が言って、銀色のポットから健太郎のコップにコーヒーを注ぎ足した。

「夢にしちゃリアルすぎる。もっともやってたことは超非現実的だけど……」

 

「狐の祠に関係あるのかな」春菜が健太郎に身を寄せたまま呟いた。「その母娘って、もしかしたらあの狐の親子かも……」

「それは間違いないと思う……」健太郎は小さくため息をついた。

「狐に幻を見せられた、ってか?」修平がコーヒーを一口すすった。「あちっ!」

「何にしても、ケンちゃん、無事で良かったじゃない。怪我もしてないみたいだし、何かに取り憑かれてる風でもないし」

「逆に気持ちよくイかされたわけだしな」修平がいたずらっぽく笑って、コーヒーにふうふうと息を吹きかけた。

「よせよっ」健太郎はまた赤くなってコーヒーをすすった。