Twin's Story 外伝 "Hot Chocolate Time" 第2集 第12話

〈2.フラッシュバック〉

 ――真雪は全裸で白いシーツの上に寝かされていた。そしてその身体に男が覆い被さっていた。

「いやっ! いやなの! 離れてっ!」

「真雪さん、イくよ、もうすぐ、イく……」

 

 板東は真雪に腰を押し付けながら激しく身体を揺さぶっていた。

 

「な、中に出しちゃだめです! 主任、やめてっ!」

 真雪の目からは涙が溢れ、頬を伝って枕を濡らした。

「よく考えてご覧、君は全裸だ、そして僕を中に受け入れている。今さら何を迷うことがある?」

「あたし、あたし……」

「君だって、僕とこういう関係になりたかったんだろう? カラダは感じてるみたいだ。正直だね」

 ふふっと笑って板東は腰の動きを速くした。

「感じてなんか、いません。だから、離れて! あたしから離れてください!」

 真雪は板東の胸に両手を当てて強く押しやった。しかし板東の身体はびくともしなかった。

 板東は全身汗にまみれ、目を固く閉じて喘いでいる。

「イくよ! イく! 出、出る、出るっ! うううっ!」

「いやあーっ!」

 真雪は絶叫した。

 

 びゅるるっ!

 

 板東の動きが止まり、真雪の中に深々と差し込まれたモノがびくびくと脈動した。

 びくっ! びくびくっ! びくん、びくん……。

 

 真雪の中に、容赦なく板東の欲望が弾けだされた。

 

 どくどくっ! どくっ! どく……どくん……。

 

 

「いやあーっ!」

 真雪の身体が大きく跳ね上がり、彼女を抱いたまま眠っていた龍は驚いて飛び起きた。

「まっ、真雪、ど、どうしたの?」

 真雪は上半身を起こし、はあはあと大きく肩で息をしていた。

「悪い夢でもみた?」

 そう心配そうに問いかける龍の身体を、真雪は出し抜けにぎゅっと抱きしめ、目に涙を溜めて呟いた。「龍、龍……」

「大丈夫。ほら、落ち着いて」

 龍は真雪を抱いたまま、髪を優しく撫でた。

 

 

 ――板東は四つんばいになった真雪の腰を持ち上げ、自分の硬くなったものを大きく開かれた秘部に無理矢理押し込み始めた。

「いや! いやっ!」

「どうしたんだい? 真雪、こうして欲しくて君は僕についてきたんじゃないのかい?」

「だ、だめ! 主任、やめてください」

「本当はこうして突っ込んで欲しいんだろう? 大丈夫。君もすぐに気持ち良くなるから」

 

 板東は腰を前後に動かし、いきり立ったその持ち物を乱暴に出し入れし始めた。

「いやっ! だめっ!」

「どうだい? 気持ちいいかい? 真雪」

「龍、龍、助けて……」

 

 板東の息が荒くなってきた。

 

「俊介さん、って呼んでくれないかな。真雪」

「いや、いや……」

「若い子のカラダはやっぱり締まりがいいね。あ、イきそうだ、も、もうすぐイく、イくよ、真雪」

「ああ、だめ……」

 

 板東は喉から絞り出すような呻き声を上げた。その途端!

 びゅくびゅくっ!

 

 真雪の中に、欲望の白い液が何度も放出された。

 びゅくっ! びゅくびゅくっ!

 

「いや……」真雪は涙をこぼしながら力なく呟いた。

 

 

 ――白いシーツの上で、真雪は全裸でうつ伏せにさせられていた。

「もういや……、許して、許してください、主任……」

 板東は真雪の身体を押さえつけながら、上から突き刺したペニスを激しくその谷間に出し入れし始めた。

「痛い! 痛いっ! やめてっ!」

「感じてるんだろう? 真雪」

「お願いです、中には、中には出さないで……」

「こうなることがわかってて僕といっしょにここまで来たんだろう? 君だって、僕のカラダが欲しいんだろう?」

 板東はたたみかけるように言った。それでも腰の動きは続いていた。

「気持ち良くしてあげるから」ふふっ、と笑って板東はさらに激しく腰を動かした。「観念するんだ、真雪」

 

 うう、うううっ……。

 もう真雪は言葉を発する気力が残っていなかった。

 

「もうすぐだから。君も遠慮なくイっていいよ」

「だめ……龍……」

 

「真雪もこうして突かれるのが好きなんだろ? セックスが大好きなんだろう? そういういやらしいカラダに、彼がしてくれたんじゃないのかい?」

 板東は出し抜けに腰を突き出し、その持ち物を真雪の奥深くまで押し込んだ。

 

 真雪の身体の中心に強い衝撃が走った。

 

「君はイけなくてもいいよ。僕だけ勝手にイかせてもらうから。所詮オンナのカラダなんてみんな同じ。男を気持ちよくさせるだけの道具だからね」

 板東は片頬にいやらしい笑みを浮かべた。

「やめて! やめてーっ!」真雪は泣き叫び続ける。

 

「出、出るっ! ぐううっ!」

「うっ!」真雪は思わず呻いた。その瞬間、板東のカラダから噴き出したものが、真雪の奥に発射され始めた。

 

どくっ、どくどくっ!

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、龍……」

 真雪の目から涙がぽたぽたとライトグリーンのシーツに落ちた。

「真雪……大丈夫?」龍は部屋の灯りをつけた。「何か飲む?」

 真雪は手で目元を拭いながら、ぎこちない笑顔を龍に向けた。「あたしが淹れるよ。紅茶でいい?」

「いいけど……」

 

 

 ティーカップを手に、憔悴してうつむいている真雪の肩を抱いて、龍もカップを持ち上げた。

「フラッシュバック、みたいなものかな……」

「ほんとにごめんね、龍。夜中に起こしちゃって」

「気にしないでよ。でも、何とかしないと」

「そうだね……」小さく呟いて真雪は紅茶をすすった。

 

「思い当たることとか、ないの?」

「たぶん……」カップから口を離した真雪がゆっくりと話し始めた。「あたし、年上の男の人への拒絶感がまだ残ってるんだと思う」

「年上の?」

「うん。20歳の時、あの人にあんなことをされてから、今でもネクタイ姿の年上の男の人を見ると、脚が竦(すく)んじゃう。近くに寄って来られると動悸がして、胸が苦しくなるんだ……」

「そうなんだ、気づかなかった……」龍はうつむいた。

「毎月行ってる酪農研究所の所長さんでさえ、前に握手を求められてもできなかった……。すっごくお世話になってるのに、とっても申し訳ない……」

「でも、10年も経って、いきなりこんな悪夢をみるなんて」テーブルにカップを置いた龍は、真雪の右手を両手で包み込み、心配そうに彼女の顔を覗き込んだ。「何か……あったの?」

 

「うん……」真雪は唇を噛んだ。「先週、あの男を見かけたの……」

「えっ?! ほんとに?」

 真雪は顔を上げて龍を見た。「でも、たぶん人違い。年齢的にあの時と同じ姿だったから。すっごくよく似てて、ショップの窓の外を歩いてたその人が店の中をちらっと見た時、あたし10年前の出来事を強烈に思い出したんだ」

「そうなんだ……」

「その瞬間、ひどいめまいがして、あたし床に座り込んじゃったの。それこそフラッシュバック……」

「そんなことがあったんだ……」

「悪夢の原因は、だからきっとそれ」

 

「でもさ、年上の男性だったら、うちの父さんやケニー叔父さんはどうなの?」

「それは大丈夫。全然平気。ケンジおじもケニーパパもあたし大好きだし、ハグされても逆に癒されると思うよ」

 真雪は微笑んだ。

「父さんからハグされたことあるの?」

「大人になってからはないけどね。小学校の頃はよくそうやってかわいがってもらってたよ」

 

 そう言った後、真雪はまた悲しそうな表情に戻った。

 

「ごめんなさい、龍……。10年も経つのに、まだ忘れられていないなんて……」真雪は慌てて龍に顔を向けて言った。「いやなんだよ、もちろん。あたしだって思い出したくないことなんだよ!」

 龍は優しく微笑んで真雪の肩に置いた手を首筋に移動させた。「わかってる」

「龍のお陰であたし元に戻れたし、あなたの温かさや優しさもいっぱいもらえて、その上結婚もできて、子どもも生まれて、あたし、もう十分幸せなのに……」

「でも、まだ君の中のどこかに、そういう拒絶感があるんだったら、何とかして取り除かなきゃね」

「う、うん……」真雪はまたうつむいた。

 

 

 真雪は高校を卒業した後、動物飼育に関する勉強をするための専門学校に二年間通った。その二年目の冬、彼女は学校の重要なカリキュラムの一つ、恒例の一週間に亘る郊外の水族館での宿泊実習に参加していた。

 その四日目の夜、実習生の世話を担当していた研修主任の板東俊介という男が言葉巧みに真雪に近づき、夕食に誘った。20歳になって間もない真雪に、成人祝いという理由をつけて酒を勧め、恋人龍に会えない寂しさを抱えていた真雪の心の隙に付け入ってホテルに連れ込み、そのまま身体の関係を結んでしまったのだった。

 気の迷いとは言え、真雪はその龍への裏切り行為を激しく後悔した。そして彼女は実習から帰った夜、狂ったように泣き叫びながら龍に謝り続けた。龍は自らの心から噴き出しそうになる、胸を引き裂かれるような痛みと苦しみを必死で抑えながら、そんな真雪を精一杯の温かさで抱きとめ、包み込み、癒した。

 龍と真雪はその後、友人や家族の温かい思いや励ましにも支えられて、より強くお互い愛し合う気持ちを持ち続け、そのまま無事に結婚し、愛らしい二人の天使も授かった。

 

 

 龍は一口紅茶を飲んだ後、カップをソーサーに戻し、しばらく目を閉じて考えた。

 

「龍……」

 真雪が小さく彼の名を呼ぶのと同時に龍は目を開けて、不安そうな顔をしたその愛する妻に目を向けた。

「真雪、今から俺、ちょっととんでもないこと口走るけど、いいかな?」

「え? なに?」

「イヤならイヤって、ちゃんと言うんだよ」龍は真雪の目を見つめながら念を押した。

「う、うん」


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「父さんにトレースしてもらったらどうかな」

「え? ケンジおじに? トレース?」

「うん。つまり、君がその晩、板東にされたことと同じことを父さんにしてもらって、君の身体と心を癒してもらう」

 真雪は思わず大声を出した。「あ、あたしが、ケンジおじに……だ、抱かれる?」

 龍は眉尻を下げてふっとため息をついた。

「やっぱりイヤだよね」

 

 真雪は手に持っていたカップの半分程に減った中身をしばらく見つめていたが、何かに決心したようにそれをテーブルに置いて、龍の目をじっと見つめた。

「とっても素敵な方法だと……思う。思うけど……」

「思うけど?」

「りゅ、龍は平気なの? あたしがあなたのお父さんと、その、セックスするの」

「真雪のトラウマがそれで解消されるのなら、安いもんだよ。っていうか」

「え?」

「なんかさ、真雪が父さんに抱かれるの想像すると、ちょっとどきどきする」

「どきどき?」

 龍は慌てて言った。「いや、あ、あの、そ、それは決して俺自身に寝取られ願望があるってわけじゃ、その、なくてさ」

 真雪はくすっと笑った。「もしかしてあるんじゃないの? 龍」

 龍は少し表情を硬くして真雪を見た。「誤解しないで、真雪。君がケンジ父さんに抱かれることを想像すると安心できる、っていうことだから」

「どういう意味?」

「あの男が君にしたことを、俺は決して許しているわけじゃないし、それに対してどきどきしたりすることなんか絶対にない」

 真雪はうつむいた。「うん……わかってる」

 龍は真雪の手を取った。「でも、父さんみたいに俺たちのすぐ近くにいて、二人の気持ちを十分知ってる人なら……」

 真雪は申し訳なさそうに龍の顔を見た。「うん。わかる。あたしも板東みたいな男にまた抱かれたいなんて思ってるわけじゃないし、そういう意味で言ったんじゃないよ。龍」

「うん。わかってる」龍は真雪の手のひらを包み込んで優しくさすった。

「ごめんね、変なこと言っちゃって」

 龍は黙って微笑みを返した。

 

「確かに」真雪も龍に微笑みを返しながら言った。「ケンジおじに癒やしてもらうのはいい方法かもね」

「君が俺以外の男性に抱かれて、年上の男性への拒絶感をぬぐい去る、という方法を取る場合、考えられる相手は三人しかいない」

「三人もいるの?」真雪は呆れ顔をした。

「父さん、ケニー叔父さん、それにケン兄(健太郎)」

「な、なにそれ! パパやケン兄なんて!」真雪は真っ赤になった。

「だってさ、真雪が俺を放り出してそのまま突っ走るってことにはならない相手って、この三人しかいないでしょ?」

「パパに抱かれるのはいやだな」

「えー、なんで? 逆に父親だったら娘を最高に癒してくれるんじゃない?」

「世間に顔向けできないよ」

「それが理由? じゃあ真雪は父親であるケニー叔父さんに抱かれるのはまんざらでもないってことなんだね」

「確かにパパは大好きだけど……癒やしにはならないような気がする」

「そう?」

「最中にあれこれ言ってきて、いろいろうるさそうだし。あの人おしゃべりだから」

 

 龍は肩をすくめた。「言いたいことはわかるよ」

「ケン兄も年上じゃないからだめでしょ」

「そうか、たしかにお兄ちゃんと言っても実質双子だからね」

「そうやって考えると、ケンジおじに抱いてもらうのはいい判断かも」

「やってみる価値はあるだろ? あの人にならできそうな気がする。それにいざという時、真雪が拒絶しても、父さんならそれ以上無理強いしないよ」

「うん。そうだね。彼なら大丈夫だね。紳士だから」真雪は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

「彼は俺にも、真雪にも最も近くて、生まれた時から俺たちを見ててくれてたわけだしね。間違ったことにはならないよ。きっと」

 真雪は何度も小さくうなずいた。

 

「明日にでも俺から話してみるよ。父さんに」

 真雪は龍の目を見つめた。「もう一度訊くけど、龍は本当にいいの? そんなことになっても」

「憎き板東の残滓が君の中から消え去るのであれば、喜んで」龍は笑いながら、また真雪の肩を抱き寄せた。「それにさ、真雪は中学生の時、父さんに憧れてたんだろ?」

「憧れてた、って言っても、抱かれたいなんて思ってなかったよ。抱かれたかったのは当時から龍だけだったからね」

「その頃、俺はまだ小学生でした」龍は笑った。「マユ姉ちゃんは俺も大好きだったけどね」

 龍は真雪の身体を自分に向けて、悪戯っぽく口をとがらせて、啄むようなキスをした。

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 ★この真雪(と龍)にとってトラウマになる程の事件は『Twin's Story 10 "Cherry Chocolate Time"』『真雪の過ち』『真雪の独白~二日目の夜』に詳しく描かれています。時間に余裕のある方は、先にこれらのエピソードを読んでおかれると、このあとの展開がより興味深く味わえます。