Twin's Story 外伝 "Hot Chocolate Time" 第2集 第12話

〈7.ドリンク〉

 

 龍は下着姿でベッドの上にいた。

 

 ミカが冷蔵庫から缶ビールを二つ取り出して、一つを龍に手渡した。

「ありがとう、母さん」

「こうやって息子とビールが飲めるってのも嬉しいが、」ミカはプルタブを起こした。「こういう場所でいっしょにビールが飲めるってのも、また格別だな」

「いや、普通ないから、母子でこういう状況」龍も軽やかな音をたてて缶を開けると、一口ビールを飲んでミカを見た。「父さんとも、よくホテルに行ったりしてたの?」

「あたしね、ケンジの二十歳の誕生日に、居酒屋で告白して、その後彼を強引にホテルに連れ込んだんだ」

「ええっ? ほんとに?」

「今思えば、かなり淫乱なオンナだよな」ミカは笑ってまたビールをごくごくと飲んだ。

 

「で、それが二人の初体験なの?」

「あたしたちの初体験は、ケンジの19歳の誕生日だ。おまえも知ってるだろ?」

「ああ、あれね」龍は手を打った。「その時父さん泥酔してたんだっけ?」

「そう」

「で、母さんの身体中にぶっかけちゃった、っていう……」

「初めての行為がそれだからなー」ミカは笑って、またビールを煽った。

 

「で、告白した夜はどうだったの? それから丁度一年後の夜」

「それがねー、ケンジ、あたしを抱きはしたけど、セックスはしなかったんだよ」

「そうなの? もしかして、母さん、父さんにしこたま飲ませて、またべろべろに酔っぱらわせてた、ってこと?」

「いや、ケンジは居酒屋では酒は一滴も飲まなかったんだ」

「へえ。じゃあどうして……」

「ホテルで、一応二人とも裸になって抱き合ったけど、ケンジ、元カノとのことを思い出して、あたしと繋がるのを躊躇したんだ」

「元カノって、マユミ叔母さんのことでしょ?」

「そ」ミカはビールの缶を持ち上げ、残った中身を喉を鳴らして飲み干した。

「まじめなんだね、っていうか、律儀なのかな……」

「ま、告白してすぐ、っていうこともあってさ、ケンジもあたしのこと好きではあったらしいけど、いきなりマユミじゃないオンナとセックスするのには抵抗があったんじゃない?」

「二十歳になったばっかりだしね」

 

 ミカはまた冷蔵庫を開けて、二本目の缶ビールのプルタブを起こした。

 

「また飲むの? 母さん。本当にビール、好きだね」

「ああ、好きだね。おまえも飲む?」

「遠慮しとく。酒のせいで中折れしたくはないよ」

「そんな歳か?」ミカがにやりとして龍を見た。 

「気を遣ってるんですよ、母上」龍は笑った。

「そう言えばおまえ、どうして途中で抜くんだ? イく時。中に出しても良かったのに。その方が気持ちいいだろ?」

 

 龍はビールの缶を両手で包み込んで、目を閉じた。「俺さ、真雪が板東に中出しされたことが許せない、って思って以来、自分も他の女性の中に出すことにすっごく抵抗を感じるんだよ」

「安全期でもか?」

 龍は顔を上げて前に立ったミカを見た。「それは関係ない。真雪も板東との時は安全期だったし。でも、妊娠しようとしまいと、液を体内に直に注ぎ込む、っていうことが俺、どうしても許せなかった。だから俺も、真雪以外に中出しはしないって誓ったんだ。と言っても」龍は照れくさそうに笑った。「もちろん真雪以外の女性を抱くのは母さんが初めてだけどね」

「気にしすぎだろ。板東と真雪の一件は、超特殊な出来事だったんだから。おまえまでそれにこだわる必要はないんじゃないの? オンナは意外に中出しで感じるものなんだぞ」

 

 龍は目を上げてミカの目を見つめた。「これだけは譲れないんだ。ごめんね、母さん」

「頑固だな、おまえ」ミカは言った。「でも、あたしぶっかけられるのも好きだから、さっきは別の意味でかなり興奮したよ」

「そう。良かった」龍は少し恥ずかしげに微笑んだ。

 

「それにおまえ、バックからやるのも、あんまり好きじゃないだろ」

「え? わかるの?」

「直感だよ直感。なんでだ?」

動物が交尾してるっぽくて、なんか、相手をただのメスだって、思ってしまいそうだから」

「メスじゃないか。正真正銘。おまえだってオスだろ?」

「よくわかんないよ、俺だって。でも、向かい合って抱き合ってイく方が好きなことは確かだね」

「真雪とはいつもそんなクライマックスなのか?」

「うん。ほとんどそう」

「動物的ってのは、逆に燃えるだろ。イく時向かい合ってれば、それまでの過程でバックで攻めるのもアリなんじゃないのか?」

「もういいだろ。好みの問題じゃん、そんなの」

「変なこだわりだな」

 

「じゃあさ、父さんってどういうスタイルが好みなの?」

「スタイル? セックスの時のか?」

「うん」

「ポジションとしては何でもOKだな。上からでも下になっても、バックからでも、立ったままでも座っても」

「へえ」

「真雪はどんなポジションが好きなんだ?」

「彼女もキホン俺と向かい合ってイくのが好きだね。でも、騎乗位はさすがに上手いよ。むちゃくちゃ気持ちいい」

「そうか。真雪は乗馬の名手だからな」

「腰の動きが巧みでさ、それにあの大きなおっぱいが揺れる迫力がたまんないよ」

 ミカは笑った。「おまえ、おっぱいフェチだからな」

 

「父さんのテクニックって、どんなの?」

「あの人のテクニックでどんなオトコもかなわないのはキスだね」

「へえ」

「あたし、ケンジのキスで今まで何度もイかされたもの」

 龍は驚いて言った。「え? キスでイけるもんなの?」

「彼の唇と舌は第二の性器、って言ってもいいかも」

「何だよ、それ」龍は呆れたように眉を下げた。

「いや、ほんとだって。マユミも陽子も同じコト言ってた」

「そうなの?」

「ああ。マユミもケンジとつき合ってた頃にキスだけで何度もイったらしいし、陽子なんかも初めてケンジに抱かれた時も、すでに最初のキスで臨界点にまで達したらしいからね」

「すごいね、父さん」

「おまえも伝授してもらった方がいいぞ。真雪のためにも」ミカは悪戯っぽくウィンクした。

「うん。そうする」

 

「真雪には何か特殊な能力があるのか?」

「何だよ、『特殊な能力』って」

「まあ、おまえは他のオンナを知らないから比べようがないかも知れないけど……」そう言ってミカは眉をひそめ、続けた。「ほんとに知らないんだよな? 他のオンナ」

 龍は即答した。「知りませんよ。もちろん」

「偉いと言えば偉いよな」

「何で? 別に普通じゃん」

 

 

「だけど、おまえ、今までに相当な数のオンナたちから告白されたんだろ? 手紙や電話やメールやチョコレート、いっぱいもらってたらしいじゃないか」

「真雪以上の人はいませんでしたね」龍は涼しい顔で言った。

「幸せモンだよ。真雪は」

「ま、つき合い始めるの、早かったからね」

 

「それでもさ、おまえに真雪という恋人がいるって解っていても、モーション掛けてくるオンナもいたんだろ?」

「まあね」

「誘惑されなかったのか?」

「いっぱいされた」

「へえ。どんな風に?」

「中学の部活の時、俺の手を取って、水着越しに自分のおっぱい触らせた子がいた。高校ン時は写真部の暗室でキスされそうになったこともあったね。就職してからは飲み会で抱きついてきて、俺の耳たぶを舐めてきたり……」

「そんなことがあったのか? 初めて聞いた。よくふらふらいかなかったな、おまえ……」

「だって、真雪の唇やおっぱいの方が断然いいもん」

「そうかそうか」ミカは少し呆れたように言った。「で、その真雪のテクで特筆すべきは何なんだ?」

「いつもってわけじゃないけど、真雪の中に吸い込まれて身動き取れなくなることがある」

「吸い込まれる?」

「うん。アレが吸引されて、思いっきり締め付けられる」

「ほほう……」

「それからがすごいんだ」

「どんな風に?」

「その状態で、細かく震える粘膜に蹂躙されるんだ」

「それで、一気にイかされるのか?」

「そう簡単にはいかないのさ。弾け出す直前の状態がずっと続くんだ。もうだめだ、っていう苦痛と絶頂感が身体中を駆け巡る」

「へえ!」

「俺、時々涙を浮かべて謝ってるもん。ごめんなさい、イかせて下さい、って」

 ミカは噴き出した。「あははは! そりゃすごいな。確かに」

「父さんも、今夜、やられるかも」龍はウィンクした。

「そうだな。後でどうだったか訊いてみるかな」

 ★このワザは真雪の「吸引拘束寸止め攻撃」と言います

 

「改めて見ると、」真雪は、先にバスルームから出て、窓際に立ってビールを飲んでいたケンジに向かって言った。「龍にそっくり。あ、逆か、龍がケンジおじにそっくりなんだね」

「そうか?」

「そうやってビキニの下着一枚で立ってると、もうどきどきして、身体中が熱くなっちゃう。龍の時と同じ反応」

「へえ」ケンジがそばにあった冷蔵庫のドアを開けた。「真雪も飲む? 何か」

「チェリーのカクテルとかある?」

「んー、お、あるある。好きなのか? これ」ケンジは冷蔵庫からそれを取り出した。

 「好き、っていうか……」真雪はそれを受け取った後、顔を曇らせ、うつむいた。

 「どうした?」

 ケンジは真雪と並んで下着姿のままベッドの縁に腰を下ろした。

「あたしが板東に落とされた決定打になったのがこのカクテルなんだ」

「決定打?」

「食事の時、あたしワインが渋くて飲めなかったんだ。でね、代わりにあいつこのカクテルを勧めたの」

「そのテの酒って、甘いから酔いは早い。なるほど、板東の企みだな」

「うん。絶対そう。今ならわかる。でもね、あたし、あの年の夏に、龍といっしょに山形のサクランボ、食べたことをその時思い出したんだ」

「いつも田舎から送ってくるあのサクランボ?」

「そう。龍といっしょに食べた後、キスした時にチェリーの香りが身体中に広がってさ、その時の身体の疼きが甦ったんだ、このカクテルで」

「そうか……。偶然だが、真雪を落とすには最も都合のいい酒だった、ってわけだな」

 真雪は肩をすくめて困ったように眉を寄せた。「お酒ってホントに怖い……」

 

「しかし、龍に聞いたが、その、そいつは毎年のように実習生に手を出してたんだって?」

「そうなんだよ。もう病気だよね。一種の依存症かも」

「おまえの通ってた専門学校では、その水族館での実習って、二年生のカリキュラムなんだろ? 」

「うん。そう。毎年20人ぐらいの学生が参加する」

「ということはだ、そのほとんどがその年度に20歳になる子たちばかりなんだ。酒を飲ませて口説く絶好の口実じゃないか。きっと成人祝いだ、乾杯だ、とか言って飲ませるんだろうな」

「その通りなんだよ。あたしもそう言いくるめられてまんまと飲まされた。たぶん、あいつ、そうやってターゲットを誘って飲ませて思いを遂げるってこと、一度やってうまくいったから、調子に乗ったんじゃない?」

「大いに考えられるな、それ」

「女のコを落とす一番安直な武器だからね、お酒って」

「同じ男として、最も許せないタイプだな」ケンジが眉間に深い皺を作って、缶に残ったビールを飲み干した。

 

「そのことはあたしの人生で最も大きな失敗の一つ。同時に教訓。だから、これ飲んだら、ケンジおじ、続きをやって。あたしの嫌な思い出を消して」

「ああ。わかった。でも、大丈夫か? 真雪。その時みたいに『もうどうなってもいい』なんて気持ちになるなよ」

 真雪は笑った。「大丈夫。あの時よりずっとお酒には強くなったからね。でも、ケンジおじ相手ならそんな風になっても問題ないでしょ?」

「いや、だめだろ。あとで龍にむちゃくちゃ怒られるよ。酔わせてセックスしたなんて知れたら」

「確かにもったいないね。ケンジおじにはちゃんと素面でたっぷり抱かれなきゃね」真雪は悪戯っぽくウィンクした。

 

「ところで真雪」

「なに?」

「夜の龍の得意技、なんてものがあるのか?」

「得意技というより、彼の腕の使い方は絶品だと思うよ」

「腕の使い方?」

「うん。あたしあの腕に抱かれると、それこそもうどうなってもいい、って思うもん。お酒飲んでなくてもね」ふふっと真雪は笑った。

「そうなんだ」

「一番安心できる場所を、一番安心できる力と温かさで、きゅうって抱いてくれる。時にはそれでイくこともあるよ」

「へえ! 抱かれるだけでイくのか? そりゃすごいな」

「少なくとも、ここが洪水みたいになっちゃう」真雪は恥ずかしげに言った。「だから外で抱かれたら困ったことになるんだよ」

「そんな特技があったんだな、あいつに」

 

「ミカさんはどうなの?」

必殺『搾精ダブルスクリュー』

「は?」真雪は思いっきり変な顔をした。「な、何なの? それ……」

「ミカの必殺技だ」

「ど、どんなワザなの?」

「一度イかせた後、間髪を入れずに両脚で腰を固定して、強制的に再度イかせるんだ」

「ほんとに?」

「オトコのこいつを締め付けて、まるで回転するように粘膜が絡みついてくる。そうなるともうどんな状態でもイくしかない」

「すごいね!」

 ケンジはにやりとして言った。「健太郎もこのワザにやられたことがあるんだぞ」

「知ってる」真雪は笑った。「春菜のAV撮影の時でしょ? 龍に聞いた。あたしもあのビデオ見せてもらったけど、確かにケン兄すっごい興奮してたね」

「あいつ、終盤は演技する余裕もなく大慌てしてた」

「あれがそうだったんだね」

「そして二度目も思いっきりイかされてたよ。終わった後は汗だくでぐったりしてた」ケンジは笑った。

「今夜龍もそんな目に遭わされるのかな……」

「たぶん、やられるよ」ケンジは面白そうに言った。

「楽しみ! 後で訊いてみよ」

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