Chocolate Time 外伝第3集 第6話 そば屋でカレーはアリですか? →目次に戻る

 

 01.動揺 02.来客 03.密通 04.亀裂 05.謀計 06.陥穽 07.真相 08.氷解 09.収束


三《密通》

 立ったまま亜弓と智志が向き合っている。

 亜弓は智志の顔を見つめ、何か言ったようだが良く聞こえない。

 亜弓が智志の手を取ると、彼はびっくりしたように目を見開き、緊張した面持ちでそれでも彼女の目を見つめ返した。

 俺の心臓は速打ちを始めた。

 しばらくして彼の胸に手を当てて、亜弓はまた何か小さな声で呟いた。

 智志は泣きそうな顔で亜弓の目を見つめている。亜弓は彼の頬を両手で包み込み、顔を近づけて唇を重ねた。

 

「(なに?!)」俺は息を止めて目を見開いた。「(亜弓の方から?)」

 

 二人が客間に入って行ったので、俺は足音を忍ばせ、電灯が消されたリビングに入った。そして客間のドアに耳を当てた。

 智志の声が聞こえる。

「あ、亜弓ちゃん、だめだよ……」

 俺は気づかれないように少しだけドアを開けて中の様子を窺った。部屋の中は灯りが消えていて暗かった。

 

 客間に敷かれた布団の上で智志は上半身を起こし泣きそうな顔になっていた。亜弓はすでに黒い下着姿になっていた。智志も黒いぴったりとしたビキニタイプの下着を身につけていた。俺も同じようなものを数枚持っている。偶然とは言え、智志がそういうパンツを穿いていることが無性に腹立たしかった。

 亜弓は彼の半袖のスウェットをめくり上げ、智志の露わになった厚い胸板をそっと手のひらでさすった。そしてそのままそのスウェットを脱がせ、自分のブラも取り去ると、再び彼を仰向けにしてその身体に覆い被さった。二つの乳房を押しつけて、彼の身体を包み込むように抱きながら亜弓は智志の唇に自分のそれをあてがい、濃厚なキスを始めた。

 

 口を離した亜弓が智志の横に仰向けになり、彼を促すと、彼はおそるおそる身体を起こして亜弓に覆い被さった。

「いいの? 亜弓ちゃん」 

 智志はろれつの回らない言葉を小さく発した。 

  

「(酔った勢いで、あいつ……)」俺は小さく歯ぎしりをした。

 

「きて。大丈夫だから」

 亜弓は上になった智志の下着に手を掛けた。

「あ、自分で脱ぐから……」

 智志はそう言って膝立ちになり、すぐにそのまま自ら下着を脱ぎ去り全裸になった。

「だめなんだ……亜弓ちゃん……」

 亜弓はもう一度彼を仰向けに寝かせ、彼にキスをした後、耳元で何かを囁いた。そして彼の胸や腹をまるで子供をあやすように優しくさすった。

 亜弓はその高校時代と変わらない智志の逞しい身体を目の前にしてはあ、と熱いため息をついたように見えた。

 俺は昨夜亜弓がベッドの上で言っていたことを思い出していた。

 

『かっこよくてセクシーな男の人の身体を見れば女だって熱くなるものだよ』

 

 やがて亜弓は智志の身体の中心にあるものを両手でそっと握り、舌を這わせ始めた。

「あっ!」

 智志は言葉にならない小さな叫び声を上げて上半身を起こした。

「亜弓ちゃん! だめっ!」

 亜弓はにっこり笑って彼をなだめ、ゆっくりと寝かせた。

 ヤツのものを咥え、舌で舐めながら口を上下させているうちに、それはぐんぐん大きさと硬さを増していった。

 いつしか智志ははあはあと大きく胸を上下させ喘ぎ始めていた。

 亜弓はその行為を続けながら、器用に自分の下着を脱ぎ去った。それから智志の身体に跨がって、すっかり準備の整った彼の熱いものを自分の秘部に導いた。

「ああ、亜弓ちゃん!」

 智志は顎を上げて叫んだ。

 

「(えっ? ゴムは? コンドームはつけないのか?)」

 俺はとっさに心の中で叫んでいた。

 今考えると、目の前で起きている事実はそれどころではないはずだった。自分の愛する妻が他人、それもあろうことか俺の親友の男に寝取られようとしているのだ。避妊具を付けようが付けまいが、夫としてそれを阻止することが先じゃないのか?

 

 あっけなく亜弓と智志は繋がり合ってしまった。俺の身体はかっと熱くなり、全身から汗が噴き出した。

 亜弓は身体を上下に揺すり始めた。

 智志が大きなため息をつき、うっとりしたように言った。

「あ、亜弓ちゃん、温かい……」

「き、気持ちいい? 智志君」

「うん、すごく……あ、も、もうすぐ……」

 

 俺は亜弓との行為の時、いつもコンドームをつけている。今まで一度も生で挿入したことはない。なのに亜弓は智志に何もつけさせないまま受け入れている。俺の身体の中で、鉄が溶けてどろどろになって煮えたぎるような、今まで感じたことのない熱い思いが嵐のように駆け巡り始めた。

 

「イって! イって!」

 亜弓が叫んだ。ぐうっと呻いて智志は身体を大きく跳ね上げた。亜弓は身体を倒して彼の身体にしがみついた。びくびくと同じように身体を脈動させる二人の繋がった結合部分の隙間から、どくんどくんと白い液が湧き出してきてシーツにぼたぼたと落ちた。

 

「(イったのか? 亜弓の中に出したって言うのか?)」

 俺は激しく狼狽していた。

 

 息を落ち着ける間もなく、智志は起き上がり、息を荒くしたまま亜弓の口に吸い付いた。そして彼女の頭を抱え込んで貪るように舌を絡め始めた。それはまるでヤツの中のスイッチが切れたような豹変ぶりだった。 

 智志が亜弓から身を離した時、ヤツのものは力を失っていなかった。まだ大きく天を指して、たった今放出した自らの白い液をまつわりつかせていた。それを見た時、俺は智志の中にぎらぎらした目の野性のオスの姿を見たような気がした。

 智志は亜弓を四つん這いにさせると、背後からそのいきり立ったものを再びその中心に突き立て、一気に挿入させたかと思うと、何かに取り憑かれたように激しく腰を前後に動かし始めた。

 

 俺はもはやこののぞき見行為に疲れ果てていた。得体の知れない虚無感と一種投げやりな感情が頭の中をぐるぐると回っていた。

 

 気づかれないようにそっと客間のドアを閉めた俺は重い足を引きずるようにして二階への階段を上がっていった。