Twin's Story 外伝 "Hot Chocolate Time" 第1集

第2話 写真集タイム

 龍が中二、真雪は高三の夏。海棠家のリビング。

 テーブルの上に数枚の写真が広げられている。どれもモデルは真雪だった。

 

「これは、夏に草原で撮ったやつが言った。

「真雪って麦わら帽子が妙に似合うね」ミカがその写真を手に取って言った。

「この大人っぽいのはいつ撮ったんだ? 龍」ケンジが一枚の写真を指さした。真雪が全裸で、淡い琥珀色の灯りの前に立って、シルエット姿になっている。

「それはこないだ真雪んちのリビングで撮った」

「アシスタントのケン兄は横で鼻血出してたよね」真雪が笑った。

「若い身体って、きれいだよな」ケンジがため息をついた。

 

 

 海棠家のケンジとミカの夫婦には一人息子の龍。

 ケンジの双子の妹マユミはケンジの親友ケネス・シンプソンと結婚し、これも双子の兄妹健太郎と真雪をもうけた。

 その龍と真雪はいとこ同士だが、この6月から熱い交際を続けている。当然お互いの身体を求め合う関係だ。

 龍は以前から写真に興味を持っていた。夏には両親に一眼レフのデジタルカメラを買ってもらい、恋人の真雪をモデルにして思う存分写真を撮りまくっていた。

 

 

「あたしも撮ってもらおうかな、龍に」ミカが呟いた。

「え? お前も?」ケンジが訊いた。

「そ、ヌードを」

「いいよ、いつでも」龍がさらっと言った。

「ヌ、ヌードを撮るのか?」

「そうよ」

「父さんも撮ってあげようか?」

「えっ?!」

「何なら母さんとのカラミの写真でも」

「ばっ! ばか言うなっ! そ、そんなか、かっ、カラミだなんて!」

「今ならまだ人に見せられる写真ができるよ。年取ったら皺とかシミとか、いろいろ見せたくないモノも現れてくるでしょ?」

「龍の言うとおりだ」ミカが言い放った。「よし、近いうちに設定しよう。そうかー、夏の旅行で撮ってもらうべきだったな、もっと早く気づけば良かった……」

 

「あたしケンジおじの若い頃の写真、見せてもらったことあるよ」真雪が唐突に言った。

「えっ?」

「パパが撮った写真。高校生の時の」

「へえ、あれを?」ミカが言った。

「え? どんな写真? 見たい。見せてよ。うちにもあるんでしょ?」龍が言った。

「ううむ……」ケンジは腕を組んで唸った。「み、未成年に見せていいものか……」

「大丈夫だろ、真雪は自分のヌードを見ても平気なヤツだし、龍ももうある意味大人だから」

 

 ミカが寝室から一冊のフォトブックを持って来た。

 

 龍がそれを受け取ると、すぐに表紙をめくった。「あっ! ケン兄と真雪……?」

「それが違うんだな。それは高校生の時の父さんとマユミ叔母さんだ」ミカが笑いながら言った。「予想通りの反応だったね」

「ほ、ほんとにそっくりだね。顔も、身体つきも。肩に手なんか置いちゃって。ほんとに恋人同士みたい」

 ミカが真雪を見た。「真雪はもう知ってるんだろ?」真雪は微笑みながらこくんとうなづいた。「龍もね」

 

 次のページを開けた龍は、目を輝かせてそこに貼られた数枚の写真を見つめた。「これは腕組んでる、こっちのは父さんが後ろからマユミ叔母さんを抱いて……。仲良すぎ!」次のページをめくろうとする龍の手をケンジが止めた。「ちょ、ちょっと待った!」

「え?」龍が目を上げた。

「な、何を見ても、驚かないって誓え! 龍」ケンジは思いっきり赤面して言った。

「何? なに? そ、そんな凄い写真がこの後……」

「や、やっぱりまだ早くないか、ミカ」

「もうカミングアウトしてもいい頃じゃない? 龍ももう知ってるって言うし」

「そ、そうか……」

「見ていいよ、龍。父さんの青春時代の熱い証拠写真だ」

 

 龍はおそるおそるページをめくった。彼の目に飛び込んできたのは、海岸で、水着姿のケンジとマユミがキスをしている姿だった。そして次の写真はシンプソン家の離れの部屋で暖炉をバックにやはり熱いキスをしているケンジとマユミの姿が写されていた。

 

 

 海棠ケンジ、マユミの兄妹は、実は高校時代秘密の恋人同士だった。熱く身体を重ね合い、愛し合う関係だった。そしてケンジの親友ケネスは、その二人の禁断の関係を知っていた唯一の人物だった

 

 

「すごい! きれいだね! まるで映画のシーンみたい!」龍が感動したように言った。「ケニーおじさんが撮ったの? これ」

「そうだよ」真雪が言った。

「本当に理解のある親友だったんだね、ケニーおじさん」そして目を上げてケンジを見た。「幸せだよね、こんな写真が残ってるなんてさ」

「ま、まあな……」ケンジは頭を掻きながら言った。

「この後、正真正銘のR18指定写真のページ」

「えっ?! 本当? 見てもいい?」

「もういいよ。ここまできたら、後には引けないだろ」ケンジがため息をついて言った。

「たぶん、真雪も初めて見る写真だぞ、心して見な」ミカが言った。

 

 龍はページをめくった。そのページにある数枚の写真は、薄暗い部屋でケンジとマユミが全裸のまま身体を重ね合い、むさぼるようにキスをしている連続写真だった。中の数枚は光不足のため被写体ブレで写っているが、それがかえって臨場感を増す要素になっていた。


 龍と真雪は無言のままごくりと唾を飲み込んだ。

 

 次のページは、ケンジが下になり、騎乗位で二人がセックスをしている写真。ケンジが苦しそうな表情で快感に耐え、マユミは顎を突き出して喘いでいる。

 

「……す、すごい……」龍が言った。

 

「素敵……」真雪も言った。

 

「そ、それはセルフ撮りの写真だ。さすがに人には頼めない……」ケンジが小さな声で言った。

「いいよ、父さん、これいい!」龍が叫んだ。真雪も言った「写真だけで二人が本気で愛し合っていることがわかるね。ヤラセでは絶対に出せない雰囲気」

「それに、今、クライマックスを迎えている、っていうことが、伝わってくる。熱いよ、この写真」

「そ、そうかな……」


 

 龍がまたページをめくった。「おっと!」ミカが小さく叫んだ。

「あっ! 母さんだ!」龍も叫んだ。

 ミカがプールサイドで水着姿で写っている写真、ケンジと二人でピースサインをしている写真、プールのスタート台のミカの写真。

「ミカさん、ナイスバディだね。昔から」真雪もその写真を見ながら言った。

「ありがとよ。そして次のページからはR18指定第二章」

 

「おおっ!」龍がページをめくったとたん、叫んだ。「いい! これもいいよ」

 

 ケンジの上に重なったミカ。腰から下はケットで隠されているが、明らかに繋がり合っていることがわかる。二人は恍惚の表情で見つめ合っている。

 

「ほんとに素敵。二人の身体もきれい。惚れ惚れする」真雪がため息をついた。

「それもセルフ撮りだ」ケンジがコーヒーを飲む手を休めて言った。

 

 フォトブックの最後の方には、そういうラブシーンの写真がたくさん貼られていた。

 

「燃えてきたっ!」龍が言った。「こんど、本気で撮る。父さんと母さんのカラミ」

「えっ?! お前が撮るのか?」ケンジが驚いて言った。

「それから、できれば父さんとマユミ叔母さんのカラミも。こんなにきれいで素敵なカップルのカラミ、今撮っとかなきゃ。もったいないよ」

「あたし、アシスタントやるから、パパとママのラブシーンも撮ってやってよ」真雪が言った。

「もちろんOKだよ」

 

「な、なんてヤツら……」ケンジが呆れて言った。

「もう誰も二人を止められないね」ミカも言った。

「じゃ、じゃあ、俺もお前たちが愛し合ってる姿、撮ってやる」ケンジが言った。

「大丈夫? ケンジ鼻血噴かない?」ミカがおかしそうに言った。

「ティッシュ、横に置いとく」

「さすがだね」ミカは飲み干したカフェオレのカップをテーブルに戻した。

 

2013,7,27 最終改訂脱稿

 

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■写真集タイム あとがき■

 ケンジとミカの一人息子龍は、小学校高学年の時からカメラに興味を抱き始めます。中学校に入学した時に、両親からコンパクトカメラを買ってもらって、それ以降彼はいろんな写真を撮っていたのですが、中でもその頃からほのかな恋心を抱いていたいとこの真雪の写真を特にたくさん撮らせてもらっていました。

 その中の一枚、『シンチョコ』の駐車場、プラタナスの木の下で、店をバックにチョコレート・アソートの箱を持って微笑んでいる真雪を撮った一枚は、『シンチョコ』のパンフレット名場面集『シンチョコのチラシ』に使われ、人気を博しました。限定100枚しか印刷されなかったそのパンフレットにはプレミアがつき、一部のマニアの間で密かに取引が行われていたという噂まであります。

 『シンチョコ』の店内には、大きく引き延ばされたその写真がポスターとして飾られています。高二だった真雪の姿が、健康的で爽やかで、なおかつ甘くて香り高い店の雰囲気にぴったりマッチしている、と評判のその写真は、今でも常連客に人気です。

 龍は中二の夏、家族とシンプソン一家との旅行の時、ケンジたちが彼のバースデープレゼントとして準備していたレンズ交換式の一眼レフデジタルカメラを一足早く手にします。真雪の写真が高評価を受けたことと、彼が中一で旅行したハワイで、誰が撮ったかわからないケンジの泳ぐ姿の写真を見たことが、彼がそれからずっとカメラを手放せなくなる大きな要因になり、さらに高いクオリティの写真を撮りたい、という強い意欲に繋がっていったのです。

 さらに輪を掛けて彼の写真への情熱を高ぶらせたのが、ケンジたちの若い頃の愛し合いの写真。それは被写体の美しい肌や均整のとれたスタイルだけではなく、二人が愛し合っているという気持ちまでも写し取ることができる、ということを龍に思い知らせてくれました。彼はそれから幾多の恋人たちの愛し合うシーンを残していくことになります。

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