Twin's Story 6 "Macadamia Nuts Chocolate Time"

《8 ミカの暴走》

 

「夜のビーチもいいもんだな」

「わい、ハワイのこの、夜の南国的な雰囲気が一番好きやねん」

 

 7人は海岸に降りて散歩をしていた。あちこちにたいまつが焚かれ、バーベキュー、フレッシュジュース、ハワイの土産物、日本で言う屋台がいくつも軒を連ねている。海に近い場所には簡易のステージが設置されて、ポリネシアのダンスショーが繰り広げられている。昼間とはまた違った南国ならではの雰囲気に包まれていた。

 

「ミ、ミカ先生、」健太郎がミカの隣にやって来た。

「おお、どうした、健太郎。何だか顔が赤いぞ」

「ミカ先生って、ケンジおじのことが好きなんだろ?」

「お前な、あたしたちは夫婦だぞ、好きでなければ夫婦にはならないだろ? 普通」

「っていうか、ど、どうしてケンジおじのことが好きになったの?」

「お前、何が言いたいんだ?」

「い、いや、ケンジおじのルックスとか、水泳やってることとか、そんなのがよかったのかなって……」

「もちろんそれもある。標準的なイケメンだし、あたしと同じ水泳オタクだしな」

「お、俺ってケンジおじによく似てるって言われるけど、ミカ先生、どう思う?」

「お前らはマトリョーシカだって昼間言っただろ。龍も合わせてな。わっはっは」

 

「ミ、ミカ先生の水着姿、とっても似合ってたよ」

「いきなり何を言い出すんだ。あたしを口説いてるつもりか? 健太郎」

「と、とんでもない! で、でも、本当に何て言うか、こう、き、きれいな身体だと、俺、思う……」健太郎は足を止めてますます赤くなって言葉を濁した。

 

 ミカも立ち止まって少し考えた。

 

「よし。健太郎、いいものを貸してやろう」

「え?」

 ミカは一枚のカードを取り出して健太郎に渡した。

「これって……」

「あたしたち大人の部屋のルームキー」

「え? ど、どうしてこれを俺に?」

「ま、使い方はお前に任せるよ。明日の朝、こっそり返しな」

 

 先を歩いていたケンジが振り向いて言った。「おーい、ミカに健太郎、そんなところで何やってんだ?」

「ああ、ちょっと昼間のこいつの泳ぎについてアドバイスしてた」そして時計をちらりと見て続けた。「そろそろ予約していた時間だ。行こうか」

 ミカは横に立ってもじもじしている健太郎の腕を取った。

「おまえ、本当に解りやすい反応するのな」

「え?」健太郎は赤くなった顔を上げた。

「血は争えないってか」ミカは豪快に笑って、健太郎の腕を掴んだまま歩き出した。

 

 

 ビーチが見下ろせるレストランに7人は入った。奥に通された二つのファミリーは広いテーブルを囲んで座った。彼らの他にもたくさんの観光客がディナーを楽しんでいた。時々ケンジたちを見て、小さく手を振る客もいる。

 

「きっと、昼間のあれを見ててくれたんだな」ケンジが言った。

「わいら、一気に有名人になってしもたな」

 

 周りでウェイターが忙しく運んでいる料理は、子どもたち、特に龍には初めてのものばかりだった。彼はそれを見回しながらため息をついた。「こ、こんな贅沢な食事、ばちがあたりそうだよ……」

「日本に帰ったら、しばらくは梅干し生活だからな。覚悟しとけ」ミカが言った。

「ええっ?」龍が顔を上げた。

「当たり前だ。うちがこんなこといつもできるような金持ちじゃないってこと、お前も知ってるはずだぞ」

「ほたら、乾杯といこか」

「そうだな。みんな飲み物はそろったか?」

「うん」「大丈夫だよ」

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 ミカが立ち上がり、隣同士に座っているケンジとマユミを見て言った。「ケンジとマユミのスイートデーに、」そしてケネスに向き直った。「我々の新たなシーンの幕開けに、」ケネスはひきつった笑いを浮かべた。ケンジとマユミは同じようにくすっと笑った。「乾杯っ!」ミカが高々とグラスをかかげた。

「かんぱーい!」

 

「おい、ミカ、」ケンジが左隣のミカに声を掛けた。「新たなシーンについて、ケニーには同意を得たのか?」

「ううん。まだ。だけど、これからよ」ミカはケネスに声を掛けた。「ケネス、こっちに来なよ」ミカは自分の左側の空いた椅子の座面をぱんぱんと叩いた。健太郎がちらりと目を上げてその様子を見た。

 

「よしっ! 飲め」ミカは新しいグラスに赤ワインをなみなみとついでケネスに勧めた。

「すんまへん、ミカ姉、いただきます」

「そうだ。いただけ」

「母さん、酔ってる?」龍が少しあきれ顔で言った。

「あたしはいつも酔ってるようなもんだ。特にこっちに来てからはずっと」

「いっつも手に缶ビール持ってたからなー」ケンジが言った。

「よしっ! もっと飲めっ!」ミカがケネスのグラスにワインをつぎ足した。

「ミカ姉、わいを酔わせてどうする気や?」

「ぎくっ!」

「『ぎくっ! 』? 何か企みでもあんのんか?」

「我々の新たなシーンの……、」

「もうええ。わかったっちゅうねん。つき合ったるから。あんまり無理せんといてんか」そしてケネスはマユミに目を向けた。「ほんまにええんか? マーユ」

 マユミは黙って微笑みながらうなずいた。

 

 

「飲み過ぎだよ、母さん」龍がため息交じりに言った。

「だ・れ・が・飲み過ぎだって? え?」ミカの足はふらついている。ずっとケンジが肩を抱きかかえてコンドミニアムの前までやってきた。「じゃあ、お前たちはもう寝な」

 

 子どもたちを部屋に入れて、ケンジたち大人4人はソファに腰を下ろした。

「よしっ! 飲み直すぞ! ケネスっ!」

「まだ飲むんかいな。もうやめとき、ミカ姉」

「何だと? アタシにそんな口きいていいのか? ケネス」

「カラみだした……」ケンジが言った。

「お、おい、ケンジ、こういう時の対処法、教えてーな。どないしたらミカ姉を鎮められる?」

「口を塞ぐんだよ」

「えっ?」

「口で口を塞いでみろよ」

「な! そ、そ、そんなこと人前でできるかいな」

「じゃあ、俺たち先に寝るから」ケンジはケネスにウィンクをして、マユミの手をとって立ち上がった。

「え? お、おい、ケンジ、」ケネスは焦ったように言ったが、ケンジたちは奥の寝室にあっさりと消えてしまった。

 

 ミカはソファの上でケネスに身体をもたせかけ、とろんと半分閉じた眼で彼の眼を見つめた。

「ケネス、やっとこの時がきたねぇ」

「ミカ姉、大丈夫かいな……」

「ねえ、ケネス、キスして……」

「え?」

「優しくね」ミカは眼を閉じて唇をケネスに突きだした。

「ちょ、ちょっと待ち、ミカ姉、」

「ん? どうしたの?」ミカは眼を開けた。が、半分閉じている。

「少し、酔い醒まそやないか」そう言ってケネスはミカを抱きかかえ、広いテラスに出た。

「涼しくないっ!」ミカが叫んだ。「かえって暑いぞ、ケネス」

「ミカ姉、水でも飲むか?」

「うん。飲む」

 

 ケネスはテラスの大きなデッキチェアにミカを横たえ、キッチンからミネラルウォーターのボトルを持って戻った。

 

「ほれ、ミカ姉、水や。飲み」

 ミカはケネスからそのボトルを受け取り、ごくごくと一気に飲み干した。そしてそのままデッキチェアに横になって寝息をたて始めた。

 

「ほんま、飲み過ぎや。っちゅうか、はしゃぎ過ぎやな、ミカ姉の場合……」

 ケネスはミカを残して部屋の中に入った。

「ミカ、寝ちまったみたいだな」ケンジが立っていた。

「なんや、ケンジ、お前たち楽しんでたんやないんか?」

「いや、あんなミカをお前に預けたままっていうのも気が引けて……」

「ミカ姉、張り切りすぎや。今日一日動きっぱなし、しゃべりっぱなし、飲みっぱなしやったからな、何しろ」

「それもそうだ」

「風邪ひけへんかな? ミカ姉」

「外の方が暑いからな。でもまあ、これぐらいは掛けといてやるかな」ケンジが手に持っていた大きなバスタオルをテラスに出てミカの身体にそっと掛けた。「きっと暑さに耐えきれなくなって起きてくるよ。そのうち」

「そやな」

 

「ところで、ケニー」

「なんや?」

「お前に折り入って頼みがあるんだが」

「頼み?」

「俺の目の前でさ、その、マユとセックスしてくれないかな」

「えっ?!」

「俺、お前とマユが愛し合うの、まだ一度も見たことないだろ?」

「何やの、その理由。そもそも今日8月3日はお前たちのスイートデーやんか」

「そうだけど……さ」

「わかった。ほしたらその後、お前もいっしょに参加して3Pに持ち込むで。それでええな?」

 ケンジは頬を赤らめて言った。「いいよ」

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